ゲンロン0 観光客の哲学 / 東 浩紀(株式会社ゲンロン)東浩紀著 『ゲンロン0観光客の哲学』  明治大学 安田 英広|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年6月19日

東浩紀著 『ゲンロン0観光客の哲学』 
明治大学 安田 英広

ゲンロン0 観光客の哲学
著 者:東 浩紀
出版社:株式会社ゲンロン
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本書は東浩紀の実に2年半ぶりの単著だ。批評誌「ゲンロン」の創刊準備号であるばかりでなく、私たちの思想の新たな出発点ともなる可能性を秘めている。ナショナリズムの政治とグローバリズムの経済に引き裂かれた世界の中で、いかに生きるのか。鍵となるのは「観光客」だ。

世界から見たチェルノブイリと現実のチェルノブイリは違う。「観光客」は訪れたことのない都市をステレオタイプに思い描いている。つまりチェルノブイリの原発や廃墟ばかりに目を向け「事故現場を見たい」という欲望を抱き、赴くことになる。そこで実際にはチェルノブイリにも生活があり、日常が広がっているということを知る。結果的に「観光客」は自らの欲望したものとは違うものを受け取ることになる。

東は「観光」の動機にある欲望を不謹慎だといって退けることはしない。むしろ「観光」が「郵便的」であること、つまり「誤配」の可能性に開かれていることに希望を見出す。「誤配」とは、配達の失敗であり、予期せぬコミュニケーションである。東はこれを生かし、幾多の哲学者が呑み込まれた「友―敵」の外部に新たな連帯を構想する。大きな物語が崩れ落ちたその後にあって、普遍主義への新たな道を模索していく。

本書の発売前後は「祭り」と化していた。その間、東は意図的に祭りの中心で踊り続けた。彼は本書の予約販売分にサインだけではなくナンバリングも行っている。まるで限定販売の時計であるかのようだ。祭りに乗せられ本書を手に取った者も少なからずいるだろう。しかし当たり前だが、彼はただ売りたいからこのような企画を行ったのではない。ここで彼は人文書の読者層に「ぶれ」を生み出そうとしているようにみえる。

いつもの読者がいつものように読むという輪のなかで「観光客」の重要性を説くだけでは不十分だ。いつもの読者は主に現代思想の「住民」だからだ。それでは哲学書としてしか受け取られない。本書は批評家の書く哲学書だ。広範に読まれなければならない。だからこそ東はいままで自身の読者でなかった者に、祭りを通じて手に取らせたのだ。

手に取ってしまえば見通しの良さと読みやすい文体に、私たちはいつの間にか引き込まれていく。私たちは本書をモノとして手に取る。しかし本書は読まれることで牙をむき出し、本性を露わにする。動機が何であれ、そこにある思想に触れざるを得ない。本書は読書が一つの「観光」であることを体感させる。そして自らが現代思想の「観光客」であったことに気がつく頃には、初めの動機とは別のものを手につかまされている。

読み終えた私たちにとって本書は新たな旅への「観光」ガイドにもなるはずだ。巻末には膨大な参考文献のリストが付いている。ドストエフスキーや東浩紀の過去の著作に手を伸ばしてもよい。同時期に出版された千葉雅也や國分功一郎の新著を読む手もある。本書は「誤配」されることを通じて、その真価を発揮するだろう。普段ならば人文書を手に取らないような、あなたにこそ読んで欲しい一冊である。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年6月16日 新聞掲載(第3194号)
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