第33回 太宰治賞 贈呈式開催 受賞作『タンゴ・イン・ザ・ダーク』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年6月23日

第33回 太宰治賞 贈呈式開催 受賞作『タンゴ・イン・ザ・ダーク』

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左から山野氏、中島氏、加藤氏、サクラ氏、荒川氏、奥泉氏、清原氏

太宰治賞2017()筑摩書房
太宰治賞2017

筑摩書房
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6月13日、千代田区一ツ橋の如水会館で第33回太宰治賞(筑摩書房・三鷹市主催)の贈呈式が開催された。今年度の応募総数は1326篇。その中から最終候補作3篇が選出され、選考委員四氏(加藤典洋氏、荒川洋治氏、奥泉光氏、中島京子氏)による最終選考を経て、サクラ・ヒロ氏『タンゴ・イン・ザ・ダーク』が受賞作に決まった(受賞者には記念品及び賞金100万円)。
中島京子氏
贈呈式では、三鷹市長・清原慶子氏、筑摩書房代表取締役社長・山野浩一氏からの祝辞に続き、選考委員を代表して中島京子氏から次のような選評が述べられた。

「サクラ・ヒロさんは昨年も最終選考に残り、それも大変面白い作品だった。ものすごい勢いで弾けているような小説で面白かったが弾け過ぎているために、最終選考に残りながら受賞に至らなかったが、今回の『タンゴ・イン・ザ・ダーク』の印象はものすごく違っていて、伏線を張り巡らせた丁寧な作品になっていて驚いた。前作に引っ張られることなくブラッシュアップされて書かれた作品ではないかと感じられて、私は大変面白く読んだけれども読みやすくてつるつるわかっていく小説ではないと思う。小説の中の僕はKという女性と結婚して3年目だが、ある日から妻のKが地下室にこもって出てこなくなる。この夫婦はちょっとヘンなんじゃないかという違和感がありながら、読み進めていくとおかしいのはどっちだ? という感覚になってくる。“信用できない語り手”という言葉があるが、この人の言うことを全部信じていいのかと思いながら読み進めるタイプの小説で、ギリシャ悲劇や谷崎の『春琴抄』といった先行作品への目配せもあるが、夫婦の不思議なセックスといったものも含めて現代の人間関係の稀薄さの怖いようなところを描かれている作品ではないかと思っている。サクラさんは技術的にもいろんな挑戦をしていくと思うが、期待して楽しみにしている」。

サクラ・ヒロ氏
受賞者のサクラ・ヒロ氏は、「この作品を書くきっかけは、昨年春頃に夏目漱石の『道草』を読み返したことだった。家族は支え合うべきといった道徳律が古来存在するにもかかわらず夫婦でさえコミュニケーションを成立させるのは実は決して簡単ではない。私は他者と交わることの困難さとその可能性について考えながらこの小説を書き、その作業は主人公が奇妙な暗闇の中を手探りで進むシーンにも似た不安と驚きに満ちたものだった。『道草』のラストに「世の中に片付くなんてものは殆どありゃしない」という台詞があるが、私にとって、この世界にとって決着のつかないことがある限り、小説を書き続けていく」と、作品の背景と決意を語った。

荒川洋治氏
乾杯の発声で荒川洋治氏は、「9回目の選考だったが、今回は非常に難しかった。最終選考の3篇に特徴的だったのは、アニメやゲーム、ライトノベルから吹いて来る風が環境として作品を創るときの周囲に立ちこめていること。全体に「お話」の世界でどんどん物事が展開していく。非常に洗練されていて上手なんだけれど曖昧さ、暗示性、象徴性そういった不思議な、昔漂っていたある人たちにとっては忌み嫌う文学的な雰囲気、情趣、そういったものがない。こういう新しい風景の中に文学が突入していく。いわば文学というものを踏まえない文学の中で優れた作品があってサクラ・ヒロさんの作品はそういう素晴らしい作品だった。新しい風景に文学が突入した、ということで今回の受賞作はある意味で一つの転換点になるのかなと思う」と会場に語りかけた。
2017年6月23日 新聞掲載(第3195号)
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