【横尾 忠則】絶景で死にそこなった話 画家は、肉体労働だ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
2017年6月27日

絶景で死にそこなった話 画家は、肉体労働だ

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2017.6.12
 「ファントマ」の装幀の絵をサッと描く。15分の早描き。ファントマはマグリットを初め、シュルレアリストが愛した怪盗。

2017.6.13
 野上照代さんからアメリカ製DVD「夢」(黒澤明監督)と山田さんが「家族はつらいよ」のぼくのタイトルバックについて語られている「キネマ旬報」の記事の切抜きを送ってくれる。90歳のノンちゃん(野上さん)ころんでけがをして歩けないけれどMRIの検査で頭は異常なくヨカッタ。

ぼくを初め、みんなコロコロとよくころぶ。オノ・ヨーコさんもころんだ。妻も大和証券でころんだ。
2017.6.14
 朝4時起床、軽井沢の始発で中田先生足もみマッサージに来てくれる。先生の養生訓を聞きながらの施術はイタキモチいい。明日から十和田へ。
絶景十和田湖にて(撮影・徳永明美)
2017.6.15
 英の運転で妻、徳永と。東北新幹線のグランクラスはまるで旅客機のシートみたいで機内食みたいな車内食のサービスがあったが、駅弁を食べる。それがまずかった。ユンケルを飲んだせいか体が熱くなり、熱中症気味になる。車内温度が高いので下げてもらえないかと車掌に頼むが、定温だという。Tシャツ一枚になって氷を包んだタオルを首に巻いて、スポーツドリンクをガブ飲みして体温を下げるが一向に冷えてくれない。こちらは熱中症で苦しんでいるのに、毛布に包まれて眠っている乗客もいるが、どちらかが異常だ。

明日は十和田市現代美術館の個展「十和田ロマン」展のオープニング。小池一子館長の案内で展示室を観て廻る。初めて発表する新作はまだ馴染めないので他人の作品のように見える。描きためていたタマの絵30点も初発表。

今晩の宿泊旅館は蔦温泉。市内からはうんと遠い。奥入瀬の近くの山中にある古い旅館。久し振りの温泉だけれど初日は3分以上入浴はしない方がいい。
十和田市現代美術館にて公開制作(撮影・徳永明美)
2017.6.16
 5時起床。朝風呂。朝食の8時までタマの絵を描く。タマの絵はアトリエで描くことはない。旅先や入院中の病室や、移動先が制作場所である。作品という意識よりもタマに対するレクイエムである。他所で描くのはタマと二人同行の思いからだ。

美術館に行く予定のタクシーを方向転換して十和田湖に向かう。地元の運転手の強引な案内で、どうせ見るなら最高の絶景をと延々山中を走った挙句、道路に車を止めて険しい山中に入る。道なき道の雑木林をかきわけながら、急勾配の崖をよじ登らされる。次第に腹が立って来て運転手に文句タラタラ。でもここまで来た以上、「絶景です」という地点を目指すしかない。到達した地点からは十和田湖を俯瞰する絶景には違いないが、どうしてこゝに展望台を作らないのか? それともこの場所を地元の人でも知らないのか? 運転手の説明によるとこの辺りは熊の出没多く、この前も熊に4人殺された、危険地域だと言う。そんな恐ろしい所に連れてこられたのか! まあ食われなかっただけでも喜ばなきゃ。

午後美術館で記者会見とオープニングレセプションあり。開館以来の盛況で、通りを歩く人も少ないこの街のどこからこんなに集まって来たかと思われるほどの人達に美術館も驚いたと。小池さんが挨拶に「ぜひ絶景十和田湖に行って死にそこなった話を」と言われてそんな話をしたところ市長は「素晴しい!」と誉められたそーだ。変った市長さんだ。

あゝ、疲れた。早いとこ旅館へ。温泉に入る元気もなく、バタンQ!
南條史生さん、小池一子さんと(撮影・徳永明美)
2017.6.17
 4時半起床。朝風呂のあとタマの絵を描く。午前中から公開制作。まさかと思うほどの見物客。2時間の予定だったがスピードアップで1時間で仕上げる。意識の流れを閉ざさないためには早描きに限る。東京から森美術館の館長の南條史生さんも駆けつけてくれる。会えなかったけれど浅田彰さんも。

小池さん始終ニコニコ、よかった、よかった。一足お先に帰京。東京駅から整体院へ直行。
町田市立国際版画美術館にてサイン会(撮影・風間シゲキ)
2017.6.18
 町田市立国際版画美術館の個展の最終日なのでサイン会を。1時間で300人に! 昨日は公開制作、今日はサイン会、だけど思ったほど疲れていないのが不思議。昨日は来館者千人、今日はそれ以上だと思う。なんだかアスリートになった気分。やはり画家は肉体労働者だ。芸術家だなんて思わない方がいい。職人根性でやればいい。その「根性」は必要ないけどネ。

2017年6月23日 新聞掲載(第3195号)
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