川奈まり子 迷家奇譚|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年6月26日

川奈まり子 迷家奇譚

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迷家奇譚(川奈 まり子)晶文社
迷家奇譚
川奈 まり子
晶文社
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廃墟、トンネル、水辺、人形、古い家具等々、普段はなんとも思わないような、いやむしろ極めて魅力的にさえ思える場所や物が、ふとした瞬間、自分だけにまったく別の顔を見せることがある。それがいわゆる怪異だ。

この作品でも著者自身が経験した、開発途中で放棄されたリゾートマンションらしき廃墟での異様に首が長くふらふらと動く男の影や、誰も居ないことを確認したはずなのにクローゼットから現れて忽然と姿を消した男、知人が購入した古箪笥の奥から出てくる黒髪と夢に現れる女の姿など、次から次へと怪異が語られているのだが、著者が集めた話を、どうです怖いでしょうとばかりに単純に語るだけではないところがこの本の魅力となっている。

得体の知れない何ものか。それらを個別に認識するだけならば、こちらに仇をなそうがなすまいが、それはたんに死者の魂や生霊、物の怪(と思えるようなもの)でしかない。しかしそこから一歩引いて、その土地や物の縁起、いにしえより語られている類話にまで目を向けることで、怪異はただの恐ろしげな怪談から民俗学的な世界にも通じる豊かな物語へと繋がっていくのである。著者がここで目指したのはそのようなことなのではないだろうか。

ちなみに書名にある「迷家」とは、柳田國男の『遠野物語』の中にも登場する、訪れた者に富をもたらすとされる山の中に忽然と現れる家(『遠野物語』では「マヨヒガ」)のことだと思われる。ただしここでは幸福の象徴としてではなく、望んでも見ることは出来ず、望まなくても目の前に現れる、この世ならざる世界という意味なのだろう。怪異は日常という被膜のすぐ後ろにある。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年6月23日 新聞掲載(第3195号)
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