第30回 三島由紀夫賞 第30回 山本周五郎賞 第43回 川端康成文学賞 贈呈式開催|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年6月30日

第30回 三島由紀夫賞 第30回 山本周五郎賞 第43回 川端康成文学賞 贈呈式開催

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左から、円城氏、佐藤氏、宮内氏
6月23日、東京都内で第三十回三島由紀夫賞と山本周五郎賞、第四十三回川端康成文学賞の贈呈式が行われた。
授賞作は三島賞が宮内悠介氏の『カブールの園』(文藝春秋)、
山本賞が佐藤多佳子氏の『明るい夜に出かけて』(新潮社)、
川端賞が円城塔氏の「文字渦」(「新潮」平成二十八年五月号)。
カブールの園(宮内 悠介)文藝春秋
カブールの園
宮内 悠介
文藝春秋
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各選考委員の代表による祝辞で、三島賞の川上弘美氏は「この作品には「カブールの園」と「半地下」の二つの短篇が収められているが、ともに舞台がアメリカで、主人公が日系人または日本人で、日本の文化とアメリカの文化の両方をバックグラウンドにした物語だという共通点がある。「カブールの園」の主人公は日系三世の女性で、英語が思考のバックボーンになっていて日本語は殆ど話さない。しかし彼女と母親、そして日本語を母語とする祖母との関係は複雑で、さらにはアメリカ人として育っているにも関わらず、アメリカ文化の中ではある種のマイノリティな存在で、それが彼女の中でさまざまな不消化を生んでいる。一方の「半地下」の主人公は日本人の男性で、バックボーンにあるのは日本文化だが、幼いころに突然姉と一緒にアメリカに連れてこられたため、前作よりももう少しシンプルでワイルドな二つの文化のせめぎあいが起こっている。そのせめぎあいを内部に抱えた主人公という、テーマは似ているけれどもじつはちょっと違う二つの作品を、宮内さんは小説としてのさまざまな仕掛けを加えながらそれぞれ異なるやり方で表現した。それがまず素晴らしかった。

いま、いろいろな国のバックボーンを持つような主人公を描いた物語が発表されていて、それぞれに見るべきところはあるが、私は特にそのようなテーマで書かれたものの中で宮内さんの小説は抵抗なく受け入れることが出来た。これは先程言った小説に加えられた仕掛けが巧みだったからではないか。あらゆる小説はその小説が要請する仕掛けを作者が上手く捕まえた時に初めて輝きを放つものだと思う。宮内さんはそのような仕掛けをそれぞれにおいて見出している。本来小説は国境も分野も時間の壁もなく、いにしえの外つ国の作者が書いた自分の境遇とはまったく違い、文化もまったく違うものがまるで自分のことのように沁み入ってくることがある。それこそが小説を読む喜びなのだとすれば、宮内さんの小説はその喜びをもたらしてくれると言えるのではないか。これからもさまざまな壁を取り払ってくれる小説を書いてくださることを期待したい。」と評価した。

続いて山本賞の角田光代氏は「小説を書く身としてもともと小説のリアリティについてずっと考えていて、自分の中の結論としては、どこにもない現実を言葉だけできちんと作り上げ、読み手にこれがいま現実に起きていてこういう人が現実に生きていると信じさせることが小説のリアリティではないかと思っていた。それでいくとこの作品には主人公が取る行動にリアリティがない場面があるのだが、その行動に対して主人公が自己嫌悪に陥ることを描くことでリアリティよりももっと大きなものが出てきて、そこで小説がぐっと強くなる。これは何なのかと考えて、それは主人公が自分にしか出せない声を持っていて、その声で自己嫌悪を語るところにリアリティが生じているのだと気がついた。登場人物たちにそれぞれの声を持たせることが、こんなにも大きなリアリティを生むのだなと勉強させていただいた」と称賛した。

川端賞の荒川洋治氏は「円城さんの作品はとても良かった。俑という陶工が主人公で、内側にいろいろなものを抱えながら非常に単純に生きていく数理的なというか数式で書かれたような物語なのだが、非常に肉感性があった。こういうような小説があるのだなと本当に感動した」と話した。各賞の受賞者たちも、それぞれに受賞に対する思いと喜びを語り、式は祝賀会へと移行した。

この記事の中でご紹介した本
カブールの園/文藝春秋
カブールの園
著 者:宮内 悠介
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
明るい夜に出かけて/新潮社
明るい夜に出かけて
著 者:佐藤 多佳子
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年6月30日 新聞掲載(第3196号)
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