笹公人『抒情の奇妙な冒険』(2008) 死神のマントのような夜を纏い毒入りコーラは少年を呼ぶ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
2017年7月4日

死神のマントのような夜を纏い毒入りコーラは少年を呼ぶ
笹公人『抒情の奇妙な冒険』(2008)

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1977年に起こり今なお未解決である毒入りコーラ事件を題材とした短歌。「黒の万華鏡」というタイトルの、昭和の事件の数々を題材とした連作の中に収められている。他には三億円事件やあさま山荘事件、ロッキード事件などが題材となっている歌がある。毒入りコーラ事件を題材とした短歌は谷岡亜紀にもあるが、笹公人の場合本人は1975年生まれでリアルタイムの事件の記憶はないだろうことがポイントだ。この歌が収められている歌集は昭和のサブカルチャーを題材としたものが多く、そして事件や犯罪すらもある種のサブカルチャーの一種として解釈しようとしている。未来の地点から想像をふくらまし、謎多き不気味な都市型犯罪にアプローチした結果がこの歌なのだといえる。

毒入りコーラ事件の最初の被害者は16歳の少年だった。公衆電話に置かれていたコカコーラを拾って飲み、青酸中毒死したのだ。現代ならいくら未開封でも置きっ放しの飲み物なんて絶対に拾わないだろう。コーラが特別な存在である世代でなければ、その輝きが理解できないこともある。作者はいわゆるロスジェネ世代である。アメリカ文化に素直に憧れ、コーラを純粋にまぶしく捉えていたような世代をどこかうらやましく思いながら、ハーメルンの笛吹きのように特定の世代だけを狙い撃つ怪人の存在を幻想の中に生み出してみたのだろう。事件をリアルタイムに知っていたら、むしろできなかった表現なのではないかと思う。(

2017年6月30日 新聞掲載(第3196号)
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