日常を記した味わい深いエッセイ 板橋和朗「日記に記す一万歩」 特集「日本近代文学の始原」 草原克芳「開花日本 書生がゆく」|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

文芸同人誌評
2017年7月4日

日常を記した味わい深いエッセイ 板橋和朗「日記に記す一万歩」 特集「日本近代文学の始原」 草原克芳「開花日本 書生がゆく」

このエントリーをはてなブックマークに追加
カワセミが三羽飛来 そ の場で鳴き声を聞く 軽舟

窓際に置いたFMラジオからブラームスのヴァイオリン協奏曲二番が聴こえてきた。たちまち高揚した楽しい気分になる。

このところ今年度のノーベル文学賞を受賞したミュージシャンで作詞家の『ボブ・ディラン語録』を少しずつ読んでいる。新しい時代の風を感じる。

記憶力ついて問われ

頭のなかに、

空いたスペースをつくっ ておくようにしている。

たくさんの事柄を

ぎゅうぎゅうに詰め込ん だりしないんだ。

だから余計なことで、

そのスペースを使わない ように注意している。

朝日新聞の「ディラン 創作の源流」などによると、公立図書館に通って知識を積み上げたあと、自分の詩で使う言葉を丹念に集めたようだ。

そのなかには無名の作家や旅行ガイドからの引用もあるらしい。

今月は板橋和朗の短い「日記に記す一万歩」(「美濃文学九十五号」)が、日常を記した味わい深いエッセイ。

「毎日使っているガラケーとよばれている携帯電話。その携帯電話に万歩計がついています。年齢が七十歳に近くなったわたしは、散歩などで外出するときは、緊急連絡用として、携帯電話を持ち歩くことにしています。

ある日、いつものように床につくまえに手もとに携帯電話をおいて、日記を書いていました。ふと万歩計の数字が目に入りました。一万歩をすこしこえた数字がならんでいます」

一日をつつがなく生き抜いてきたその証しが、一万歩という歩数となって表示されていると思うと、自分の体がなんとも愛おしく思えてきた。

その翌日からは、日記のなかにその歩数を記すようになったという。

作者の「現在」を書いているので読みやすい。

「群系」三十八号。特集が二つ。「日本近代文学の始原」は、草原克芳「開化日本 書生がゆく 三遊亭円朝・二葉亭・漱石」等。

「第6回 富士正晴全国同人雑誌賞大賞受賞について」は、永野悟「大賞受賞のご報告」等。

なお特別賞は「水路」二十号(横浜市)、「文芸中部」第100号(愛知県東海市)。

同賞は郷土出身の作家・詩人の富士正晴を顕彰しようと、徳島県三好市が設立運営しているもので、三年に一度募集、今回で六回目になる。今回は全国から一一七誌の応募があった。

「マジカント」創刊号。松原礼二の短編「悪魔夫人 出メルキド記」他。

「テクネ」三十六号。「木馬の騎手」(表紙写真・武田花)とある。武田花は武田泰淳の娘さん。大きな写真の賞をもらい、一時期、猫の写真を集中して撮っていた。もう何年も会っていないが、木馬の写真は力が漲っていて、元気そうだ。久保井研(劇団唐組)らによる「新生唐組の誕生」など。

ところで、今年も六月十三日、千代田区一つ橋の如水会館で開催された第三十三回太宰治賞贈呈式に招かれて出席した。中央線の信号機故障のため大幅に出席が遅れ、「タンゴ・イン・ザ・ダーク」で受賞したサクラ・ヒロ氏の挨拶を聞けなかったのは残念だった。

会場にはあふれるような人だかりで、受賞者への期待の大きさが感得できた。

単行本では尾崎寿一郎著『ランボーをめぐる諸説』(コールサック社)が時期を得た力作。

この他、片山恭一「フィクションの可能性」(「季刊午前」五十五号)、「追悼 清水信先生」(「文宴」一二七号)、中野薫「SODOMY」(「海」十八号)、棚橋鏡代著「彩鱗舞う」出版特集(「北斗」6月号)、岩崎正高「青春ラプソディ」(「アミーゴ」七十六号)にひかれた。
(しらかわ・まさよし=文芸評論家)
2017年6月30日 新聞掲載(第3196号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
白川 正芳 氏の関連記事
文芸同人誌評のその他の記事
文芸同人誌評をもっと見る >
学問・人文 > 評論・文学研究関連記事
評論・文学研究の関連記事をもっと見る >