歴史の喩法 ホワイト主要論文集成 / ヘイドン・ホワイト(作品社)歴史を書くとはどういうことか  読み直されるべきヘイドン・ホワイト|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年7月3日

歴史を書くとはどういうことか 
読み直されるべきヘイドン・ホワイト

歴史の喩法 ホワイト主要論文集成
著 者:ヘイドン・ホワイト
翻訳者:上村 忠男
出版社:作品社
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1973年に刊行されたヘイドン・ホワイトの主著『メタヒストリー――19世紀ヨーロッパの歴史的想像力』の翻訳は、歴史研究に関わる多くの人に40年以上待望され続けている。その『メタヒストリー』に先駆けて刊行されたのが『歴史の喩法――ホワイト主要論文集成』である。

日本において、ホワイトの名はホロコーストをめぐる論争とともに想起されるように思われる。特に歴史学者のカルロ・ギンズブルグは、本書に収録されているホワイトの論文(特に第5章)や『メタヒストリー』を批判的に検討し、ホワイトの主張を「歴史的にも論理的にも支持されえない」として強く退けた。

批判者であるギンズブルグの日本語への翻訳量に対し、ホワイトの翻訳は圧倒的に少ない。またホワイトの歴史理論についての研究も、日本では少ない現状がある。そのためか、日本における歴史修正主義論争では、事実とフィクションを区別することはできるのかといったようなホワイト的な問いは、あまり見受けられないように思われる。

本書には『メタヒストリー』以前に書かれた、歴史理論についてのホワイトの最初の論文といってよい「歴史という重荷」(第1章)論文をはじめ、7つの論文が収録されている。このうち、第4章は『物語と歴史』(リキエスタの会)として、第6章は『アウシュヴィッツと表象の限界』(未來社)の一つの章として、日本でもすでに紹介されている。以上の諸論文に加え、編訳者である上村忠男のホワイトについての講演原稿と解題が掲載されるといった構成となっている。ここでは、上述の問いに引きつけて、本書を評したい。

第2章でホワイトは、歴史が実際にあったものの表象、フィクションが想像上のものの表象と区別することができるとする歴史家の前提は間違っているとし、歴史家のナラティブのなかにフィクショナルな要素が存在することを指摘した。ホワイトによれば、歴史叙述にフィクショナルな要素があると認めることは、イデオロギー的先入観を認識するためにこそ必要なのである。

以上のような考察を経て、第5章でホワイトは「研究領域がディシプリン[規律化された学問]に変容するということにはなにが含意されているのだろうか」という問いを立て、19世紀以降の歴史学を批判し、ディシプリン化される以前の、アマチュアの活動としてあった18世紀の歴史研究を擁護した。その擁護したもののなかにファシズム体制のイデオロギーと結びつくものがあることを認めたうえで、ホワイトはファシズムが大衆だけでなく、ディシプリン化された歴史研究の文化を享受していたはずの知識人たちの一部にも訴えかける力をもっていたのはなぜかを理解する必要があるとした。こうしたホワイトの問題関心は、現代日本の情勢に鑑みれば、非常に重要である。

近年のホワイトのディシプリン化された歴史研究への批判は、本書に見てとれるほど過激なものではなくなってきている。たとえば、2009年に立命館大学で講演を行なった際には、プロフェッショナルな歴史学者たちの仕事を認めつつ、過去(past)と歴史(history)を区別したうえで、過去を研究するための方法は歴史学以外にもたくさんあるとした(講演の詳細は吉田寛・篠木涼・櫻井悟史編『特別公開企画アフター・メタヒストリー――ヘイドン・ホワイト教授のポストモダニズム講義』参照)。こうした近年のホワイトの動向もふまえると、ホワイトの議論の力点の一つは、歴史学者たちが書く「歴史」だけが「過去」ではないという点にあるのであって、歴史修正主義の擁護にあるわけではないことがわかる。慎重に検討する必要があるが、この点では、ホワイトの研究は一貫しているように思われる。

「ポスト・トゥルース」と呼ばれる時代状況下において、歴史を書くとはどういうことかを問うた本書は、近刊である『メタヒストリー』とともに必読の文献であろう。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年6月30日 新聞掲載(第3196号)
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この記事の中でご紹介した本
歴史の喩法 ホワイト主要論文集成/作品社
歴史の喩法 ホワイト主要論文集成
著 者:ヘイドン・ホワイト
翻訳者:上村 忠男
出版社:作品社
以下のオンライン書店でご購入できます
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