写真民俗学―東西の神々 / 芳賀 日出男(KADOKAWA)風土の普遍性を語る写真家  読者は共通性と地域差に思いを巡らせる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年7月3日

風土の普遍性を語る写真家 
読者は共通性と地域差に思いを巡らせる

写真民俗学―東西の神々
著 者:芳賀 日出男
出版社:KADOKAWA
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本書に収められた祭礼のひとつ穂高神社の御船祭と同じく、松本市の須々岐水神社の例大祭でも、船型の山車が引きまわされる。今年の5月5日、このお船祭りを家族と見に行った私は、とくに意識することなくポケットから取り出したスマートフォンをお船に向けた。周りの観客も思い思いにシャッターを切っており、テレビカメラもきている。すっかり身近になった写真だが、スマートフォンのなかの大量の写真や、ニュース、観光案内、SNSなどにとりあげられる写真と、本書に採録された写真に違いを感じるのは、それが著名な写真家の手による作品であるからだけではないだろう。

本書は、全体を「神を迎える」「神を纏う」「神が顕る」「神に供す」の4部に分けた上で、「火」「仮面」「獅子」「音霊」など、各部のテーマを捉えるために欠かすことのできないキーワードに沿って章立てし、世界各地の祭礼の姿を紹介していく。一例をあげると、冒頭の来訪神の章では、太陽の力の復活や、新年に訪れる様々な歳神など、日本人にも共感しやすい習俗が取り上げられている。世界各地の共通性を示してもらうことで、読者は、共通性のもう一方にある地域差が何に基づくのか、祭礼の背後にある暮らしや祭礼の位置づけまで踏み込んで思いを巡らせることになる。キーワードに沿って並ぶ写真が、フレーム内に切り取られた祭礼を支える、日常の生活感覚や意識を物語り始めるのである。インターネットで検索した結果行き当たる個別の写真にはない、カテゴライズされた写真群の機能がそこにある。

こうした写真群による問題提起は、いつどこで、誰が、何を写した写真なのかといった情報を大切にし、史実を実証するための資料として写真を使う場合、あるいは文章の挿絵として写真を使う場合とは、写真の使い方が異なる。また、網羅的に事例を集める百科事典とも別物である。どのような写真群を形作るかに、世界101か国を歩いてきた著者の問題意識の一端が示されるからだ。具体的には、風土の普遍性と表現しうるだろうか。著者は読者へこう語りかける。「祭礼には民の願いや叫び、報謝が籠められているものが多い。年中行事に親しみ、祭礼にも足を運び、何百年も続けられている風土というものを味わっていただきたい」と。

著者が眼を向けた風土は、大きな社会変化のなかを生きる私たちの「いま、ここ」にも、おそらくまだ潜んでいる。例えば、本書の章のひとつを構成している龍/竜に対する心意は、祭礼とともにこの先も受け継がれていくはずだ。今から5年ほど前、島根県に住んでいた頃、旧弥栄村(現浜田市)のふるさとまつりで演じられた石見神楽をみた。その時に、ステージのかたわらまで駆け寄り、大蛇を見上げていた幼子たちの姿が忘れられない。今年もまた、島根の子どもたちは大蛇の姿を目に焼き付け、同じころ、南ドイツのバイエルンの子どもたちは、竜退治劇に身を乗り出しているに違いない。(つちだ・たく=信州大学助教)

この記事の中でご紹介した本
写真民俗学―東西の神々/KADOKAWA
写真民俗学―東西の神々
著 者:芳賀 日出男
出版社:KADOKAWA
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2017年6月30日 新聞掲載(第3196号)
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