「真田太平記」全12巻 / 池波 正太郎(新潮文庫)じっくりと楽しみたい悠然たる大河小説|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2016年7月29日

じっくりと楽しみたい悠然たる大河小説

「真田太平記」全12巻
出版社:新潮文庫
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真田太平記

「真田太平記」は悠然たる大河小説だ。文庫本で12巻。まさにえんえんと流れ続ける大河のような大長編だが、これが実に面白い。かねてから私は、小説の二大テーマとは政治と恋愛だと考えている。権力と性、ポリティクスとセックス。その両方をじっくりと楽しめる作品なのだ。

といっても、構えて読む必要はない。池波正太郎の筆である。こなれた文章がつくりだす流れにただ、身を任せればいい。

小説は1582年(天正10年)から1622年(元和8年)までの40年間を舞台にしている。中心に描かれているのは真田昌幸と信之(幼名は信幸)、幸村の父子だ。真田二代から眺めた戦国史といってもいい。読み進むうちに、何人もの人物に会える。一人一人の輪郭が濃い。その表情の変化を楽しんだり、身体のにおいをかいだりもできるのだ。

よく知られているが、池波は真田家を描いた作品を多く書いている。初めて発表した小説も、直木賞受賞作も真田物だ。長編、短編を合わせて20編以上にのぼる。真田物とは池波文学の原点であり、背骨である。そして、「真田太平記」はその総決算だ。「剣客商売」や「鬼平犯科帳」が有名だが、「真田太平記」は池波のもう一つの代表作といっても間違いない。

真田昌幸はまれに見る戦略家だ。武田信玄、織田信長、豊臣秀吉に仕えながら、自分自身を見失わない。状況を読むこと深く、行動は素早い。謀略を尽くして、領国を守り抜く。

昌幸の二男が戦国末期のスター、幸村だ。昌幸と幸村には、いくつも共通点がある。小柄な身体にエネルギーが満ちていること。奔放な野性味とクールな知性。色を好み、女性を引きつけること。家康嫌いの秀吉びいきで、打倒家康の執念を持ち続ける。

他方、昌幸の長男、信之は大柄で肩幅が広い。落ち着いていて、思慮深い。家康側につき、治世者としての人生を歩む。

忘れてはならないのが、草の者の存在だろう。真田家では忍びの者、間諜活動をする者を「草の者」と呼んでいた。他家と違って彼らを軽んじることなく、大切にした。草の者たちも意気に感じて忠誠を尽くした。武将たちが覇権を争う一方で、草の者たちは暗闘を続ける。両者はあざなわれた縄のように歴史を作っていく。

草の者で、ひときわ輝いているのが、お江だろう。彼女は冒頭から巻末まで物語の全体を見通している。強靭な体力と精神力の持ち主だ。優しくて、情が深くて、色っぽい。何人かの男が彼女と関係を持つことで成長する。女性とは男が成長する場所であることを実感させる。

NHKドラマ「真田丸」がきっかけで、真田家に関心を持つ人が多いだろう。映像の背後にどんな動きがあったのか。歴史を立体的に楽しむためにも、「真田太平記」をお薦めしたい。

この記事の中でご紹介した本
「真田太平記」全12巻/新潮文庫
「真田太平記」全12巻
著 者:池波 正太郎
出版社:新潮文庫
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2016年7月29日 新聞掲載(第3150号)
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