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八重山暮らし
2017年7月18日

八重山暮らし➁

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サガリバナ。河川沿いや湿地に群落がみられる。
6月下旬から8月に開花。(撮影=大森一也)
初めてその花の群落を見たのは、西表島に暮らし始めて間もない真夏の明け方だった。

深夜の仲間川を独りカヤックで漂っていた。海の森マングローブに生えるヒルギの一葉、一葉が、闇の中でひそやかに吐息をもらす。ヘッドランプをはずし、パドルを握る。星明かりを頼りに源流へと漕ぎ進んだ。

仲間川河口から5㎞ほどを遡った頃、夜が明けた。頭上の瞬きはかき消え、闇夜が薄まっていく。
「カッルルルルルーー」

朝の到来を喜ぶアカショウビンの透明な鳴き声が空気をふるわす。真綿色の光が立ち現れるなか、梢から落ちたサガリバナが濃緑によどむ川面を埋めていた。4枚の純白の花びらから、薄紅の雄しべが火花を散らすように天に向かって伸びている。

迷路のごとくよじれた支流に舳先をねじこむ。両岸には深夜に花を咲かせたばかりのサガリバナが茎にしがみつき垂れ下がっている。そのひとつが朝の光にうながされ、川へ音もなくするりと落ちていく。そして、ひとつ。またひとつ…。幾百もの花がたゆたいながら流れ、海を目指す。

手のひらにすくったサガリバナは、繊細なガラス細工のように優美だ。西表島の野性味あふれる自然界にあって、そのはかなげな姿態はことさらくっきりと際立つ。可憐でありながら、清々しく、凛々しい。
2017年7月14日 新聞掲載(第3198号)
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