グローバル資本主義と〈放逐〉の論理  不可視化されゆく人々と空間 / サスキア・サッセン(明石書店)抵抗を生みだすための実用の書として  グローバルなシステムの末端で何が起こっているか|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年7月17日

抵抗を生みだすための実用の書として 
グローバルなシステムの末端で何が起こっているか

グローバル資本主義と〈放逐〉の論理  不可視化されゆく人々と空間
著 者:サスキア・サッセン
出版社:明石書店
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世界各地で、グローバル企業の収奪的な活動が人々を放逐している。バイオ燃料用作物の需要増大が土地収奪を促進し、天然資源の抽出も新技術によって急激に拡大し、シェールガス採掘は、従来の公害とは比較にならない環境破壊をもたらす。鉱毒で土地が不毛になり、地下水が汚染されて飲用に適さなくなり、住民が移転を余儀なくされ、健康被害も生じている。新たな金融商品の開発により、貧困層の住宅や国家債務までも商品化され、金融危機とともに人々はすべてを喪失した。

著者が「放逐」と称するこれらの現象は、相互に関係のないローカルな出来事に見える。しかし、これは未だ名指されていないグローバルなシステムの作動による、というのが著者の仮説である。

これが「陰謀論」であってほしいと思うぐらい、本書で列挙される多国籍企業の振る舞いは「トンデモ本」レベルである。しかし、著者の議論はすべて公的な統計と歴史的事実に基づく資料に依拠している。国家債務返済のために外国企業に市場を開放したことで、現地の製造業は破壊され、外国による土地の収奪が進み、領土に対する国家主権を弱め、脱国家化が進行する。ただし、このシステムには明確な中心は存在せず、つまり誰かの陰謀によるのではない。高度資本主義の新たな段階において現れた、本源的蓄積のための複雑な再編成過程であるという。

このシステムは未だ理論的に解明されておらず、「地表下」に隠れている。本書の醍醐味は、システムの末端で起きている具体的事例の検討を積み重ねることで、地表下にあるものを探り当てようとするところにある。金融危機や環境破壊、貧困問題として地表で目に見える形で発現している部分を、従来の社会科学の枠組みに当てはめても、地表下のシステムの全体像は解明できない。国境を越えて深いところで「放逐の論理」を規定するグローバルなシステムを解明するところに本書の新しさがある。

著者は、「放逐の論理」に基づく経済活動の端緒を、1980年代に始まった資本主義の新たな本源的蓄積の段階に見出す。かつて経済成長は、公益を増進させ、不平等はあるにしても多くの人々が富を享受する手段であった。しかし新たなシステムの論理では、企業の利潤追求を妨げるものすべてが放逐されていく。こうした企業活動は、労働者の権利にも環境の持続可能性にも配慮せず、雇用と地方経済によい影響も及ぼさない。

著者はこの現実を、人々を労働者あるいは消費者として包摂し、購買力を増すことで経済発展するケインズ主義の論理で編成されるシステムの終焉の証左としてみなす。貧困層やマイノリティを政治・経済の中心に組み込もうとする包摂の論理によっては、もはやシステムは作動していない。
新しい時代は「放逐」のダイナミクスで編成されている。経済的に強力な部門が、世界中の資源や人材を活用して、グローバルな制約もローカルな責任も極小化して、企業の経済成長が確保されているのが現実だという。

ただし、グローバル企業に収奪されている国家は犠牲者というわけではない。企業に便益を積極的に供与しているのは政府自身なのだから、国家が自らの目標を環境や人権、社会的公正に定めることで、方向性を変えることができると著者は述べる。そのために必要なのは、放逐された者たちの空間を、概念的に可視化することだという。グローバル・シティは、グローバル企業の権力の作動の場であるだけでなく、放逐された者たちにとっても、「結集」の場となりうる。なぜならば放逐された者たちは、グローバル・シティの機能に不可欠のインフラである都市底辺労働を支えているからだ。

本書の仮説の検証は困難である。しかし、物事は概念的に名指されることによってはじめて存在する。地表下のグローバル・システムが概念化されることが突破口となり、ばらばらなまま生き延びている「放逐された者の空間」もまた可視化しうる。そこから「放逐の論理」への抵抗を生みだすための実用の書として読まれることで、本書は価値を発揮するだろう。(伊藤茂訳)

この記事の中でご紹介した本
グローバル資本主義と〈放逐〉の論理  不可視化されゆく人々と空間/明石書店
グローバル資本主義と〈放逐〉の論理  不可視化されゆく人々と空間
著 者:サスキア・サッセン
出版社:明石書店
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2017年7月14日 新聞掲載(第3198号)
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