いのちつぐ「みとりびと」 第3集 全4巻 / 國森 康弘(農山漁村文化協会)「お家」を舞台にした看取り  写真と文章で雄弁に描き出す|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年7月17日

「お家」を舞台にした看取り 
写真と文章で雄弁に描き出す

いのちつぐ「みとりびと」 第3集 全4巻
著 者:國森 康弘
出版社:農山漁村文化協会
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表紙に写っているご年配女性たちの表情が豊かで、まるで女優のようだ。しかも、服装もお洒落なので、撮影にあたって「演出アリなのかな」と勘ぐった。ところが、幾ページかめくっただけで、そうではないと分かってきた。素のままだ。カメラを向けられていることなど、まったく意識の外。しんどい表情のときも、服装に無頓着な日もあったかもしれないが、写し出された瞬間は、たいそう“いい顔”をなさっている。 

二〇一四年、東京都小平市に「楪」という名の「ホームホスピス」ができた。緩和ケアを必要とするガン患者に限らず、他の病気の人も、認知症の人も「共に住もうよ」と、最大五人を受け入れる高齢者の「お家」だそう。その「お家」を舞台にした、四巻セットの写真絵本。看取りを描く『いのちつぐ「みとりびと」』シリーズの第3集である。

じわじわとくる。
喜代子さんを看取る清子さん第10巻『よかった、お友だちになれて―がんでも寝たきりでもひとりじゃない』より


入居者の一人、喜代子さんが語り部の巻「よかった、お友だちになれて」がとりわけいけない。熱いものがこみあげる。ハンカチが要る。

赤いカーディガンが似合う喜代子さんは、コーラスもピアノも社交ダンスも洋裁も得意。「自分で何でもチャカチャカ、やっちゃう」タイプで、ガンという重い病気を抱えていたが、ヘルパーさんを手伝って他の入居者の世話もしていた。先に入居していた清子さんにも、ついおせっかい。初めのうち関係がぎくしゃくしたが、徐々に仲良くなる。

鮮紅色の上着と紫色のニット姿の二人で話し込む後ろ姿の写真から、昔話の共有だけでなく、主義主張まで意気投合しているな、と伝わってくる。ところが、そんなふうに仲良くなった頃には、喜代子さんには鼻にチューブが欠かせなくなっている。

「お家」の人にケアされて、ベッドから起き上がった写真に、「でもね……、心が満たされてきても、体の具合は、下り坂みたい」とあり、続くページをこわごわ開く。

「お家」の人たちが、大好きなエーデルワイスを歌ってくれる。清子さんが話しかける声もかすかに。「先にいって、待ってますよ」「おとうさんも、首を長くして待っていたかしら」と旅立つ、その瞬間をカメラが捉えている。

なんて幸せな逝き方なんだろう。

それまで親しかったすべての人と別れる寂しさ。この先、どこに行くのか分からない不安。多かれ少なかれ肉体的な苦痛。死にゆく人には、この三つの「苦しさ」がある――。私は親友が逝った十三年前に、医師にそう言われたことが頭にこびりついているが、喜代子さんは三つともクリアしたのだ。「天晴れですね。お幸せな死ですね」と、私は喜代子さんにつぶやいた。

「楪」は、病院のホスピスで母親を看取った嶋崎叔子さんが、長く喪失感を苛まれた末、病院の遺族会に参加し「生きる力をもらった」のを端緒にはじめたのだという。理念も、具体的なケアも、入居者の気持ちも、國森氏の写真と短い文章が雄弁に描き出した。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月14日 新聞掲載(第3198号)
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