終の日までの / 森 浩美(双葉社)森 浩美著『終の日までの』  城西大学 田中 祐之介|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年7月17日

森 浩美著『終の日までの』 
城西大学 田中 祐之介

終の日までの
著 者:森 浩美
出版社:双葉社
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終の日までの(森 浩美)双葉社
終の日までの
森 浩美
双葉社
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本書はタイトルの通り、「終わり」にむけて8篇の短編で書かれた本である。

短編ごとに登場人物は変わるが、いずれも人生に影響を与えた人の死、もしくは家族の死、そして、自分や家族の老いに直面したときに、これからの人生をどう生き、どう死にゆこうかを考える、という一貫したテーマで書かれている。したがって、登場人物の人生背景に重きをおいており、登場人物がどのような生き方をして、どのような人と出会い影響を受けたのかが描写されており、そこから様々な人生を感じ取ることができる。そして、その様々な人生から出された「終わり」までの答えがある。

本書は、著者の「家族小説」シリーズの第8作目であり、家族だけではなく会社の同僚や上司、後輩も一種の疑似的家族として描いている。8篇のうちの「月の庭」では、母が他界して以来一人暮らしをしていた父が亡くなったことにより、子供たちが久方ぶりに集まるところから話が始まる。両親の思い出話をしながら始めた遺品整理で、子供たちは父がとった「終わり」に向けての行動から父の家族への想いを知るようになる。「つまらない人」では、定年をあと二年に控えた可もなく不可もなくのサラリーマン人生を送り、家では三十数年連れ添った妻の小言に耐える主人公が、ある日妻に「つまらない人ね」と言われ、ふと以前急死した自分とは正反対で入社しすぐに頭角を現してのし上がった同期の斎藤のこと、斎藤が一度だけ吐いた弱音のことを思い返す。斎藤は最期のとき自分の人生をどう思ったのだろう。私は自分の人生をどう思っているのだろうか。7編目の「準備万端」では、親友の死に直面して、人生を美しく、かつ滞りなく終わらせるための「終活」を始めた母の姿が娘の視点から描かれている。

本書は、大切な人の死や老いに直面し、自分や他人の人生を振り返る場面が多くあり、「後悔」を重要なものとして扱っている。亡くなった大切な人の後悔を感じたり、自分のこれまでの人生での選択や後悔を思い返したり、先が短い上司の後悔を聞いたりと。また、その後悔からどのようにその人が変わったのか、変わっていくのかが描かれている。本書では、初めのページに「悔いのないように 未練のないように その日まで生きるのは 難しいことなのだろか」と綴られている。人生を悔いなく閉じるにはどうすればいいか、生きている今にどんなことを成せばいいかを登場人物とともに考えていく物語だと感じた。また、本当に後悔や未練というのは人生において悪いものなのか、見方を変えるだけ変わるものもあるのではないかということを改めて考えさせられる。

「死」をめぐる話だと、どうしても重く、暗く感じてしまうが、本書は終わりの話ではなく、終わりにむけた話である。誰かの死、もしくは老いをきっかけに、自分のこれからをどう前向きに生きていくかを考えていくことで決して後ろ向きではなく、これから先をよりよい人生の終わり方に進んでいくためのものであり、希望や光を感じることができる。

私が、本書を読んで感じた印象は悲しさや暗さではなく、染み入るような穏やかな暖かさであった。死というのは、必ずしも悲しさだけを生み出すものではなく、そこから初めて知る想いもある。人生の残り時間が日々脳裏に浮かぶようになっても、これから先を考え前向きに進むことができる。そんな暖かさを感じた。

少し、先の展開が見えてしまうところもあるが、今までの人生、そしてこれからの人生をどう生きていき、どう人生を閉じていきたいか、考えさせるきっかけをくれる。
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2017年7月14日 新聞掲載(第3198号)
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この記事の中でご紹介した本
終の日までの/双葉社
終の日までの
著 者:森 浩美
出版社:双葉社
以下のオンライン書店でご購入できます
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