【横尾 忠則】ふいに「ZAIDANHOJIN!!」 頭とお尻と、不眠の空洞|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの向こう側
2017年7月25日

ふいに「ZAIDANHOJIN!!」 頭とお尻と、不眠の空洞

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2017.7.10
 全然眠れずに妄想している時、突然「ZAIDANHOJIN!」という強烈な印象に不意に襲われた。ナンノコッチャ、考えもしない観念にわけもなく突き動かされて、妻の寝室に駆け込み、「今からアトリエに行くので、すぐ朝食を!」と妻に朝食を用意させる。朝の4時である。その後の記憶はなく、朝食のあと眠ったらしい。眼が覚めると8時だ。やけに空腹を感じる。再び妻に「すぐ朝食を」と言う。妻は「4時に食べたでしょう」と言う。食べた記憶がないので、「何を食べた?」と聞くと、「何々を食べたでしょう」と言うが、「あれは昨日の朝食だ」。5時間前に食べた朝食が思い出せない。

何を食べたかが思い出せないのはいいとしても食べたかどうかがわからないというのは認知症だと聞いたことがある。俺もついに認知症になったか! とは思いたくないが、確かに食べた意識がなかった。それにしても「ZAIDANHOJIN」とは一体何のことだ? 直感というより強烈な衝動だ。それにしても今朝の行動はまるで夢遊病者だ。父は夢遊病者だったが、その行動の記憶は皆無だった。ぼくは自分が何をして、何を言ったかはちゃんと覚えているので夢遊病者ではない。朝食の記憶のないところは認知症ぽいが、本当の認知症なら、こんな自己認識はできないはずだ。

尿酸値が高いことが気になるので虎の門病院へ。薬を飲むと途中で止めることはできないと。薬が嫌なら食事療法でいきますか、と石綿先生。尿酸値はプリン体の多い食事を摂ると上るそうだ。ほっとくと痛風になる危険性をはらんでいる。プリン体まるわかりの本を手に入れて今日から尿酸値研究だ。自分の躰を研究することは「自分」を知ることにつながるので苦にはならないが、食事を作る妻のメニューが大変だろうと思うが、協力してもらうしかない。
日産厚生会玉川病院名誉院長、中嶋昭先生と(撮影・徳永明美)

2017.7.11
 とうとう夏風邪を引いてしまった。玉川病院の呼吸器内科で検査。肺炎の心配はないが、ウイルスが入って炎症を起こしているので外出を止め、人を避けるために入院を勧められる。それにしても2時間半の点滴は疲れた。明日から入院の予定。


2017.7.12
 入院の準備をして病院に行くが、いつもの部屋が空くのは明日からだというので一端引き上げることにする。

2017.7.13
 昨夜も一睡もできず。熱が全然下らない。点滴と吸入をする。午後に個室に入る。今回の主治医は梅澤先生、旧知の元院長中嶋先生、一昨日診てもらった長先生らが代わる代わるに来室。今日見本ができた書評本『本を読むのが苦手な僕はこんなふうに本を読んできた』(光文社新書)を差し上げる。

入院は外界と断ち切るために外部から受けるストレスがないので気分は良好。病院食は口に合わないので朝食のみと注文を出す。

不眠が続いていると伝えると無害の導眠剤が出るが、飲まないで寝る。

2017.7.14
 夜中の1時に一度目を覚ます。導眠剤なしで3時間のノンレム睡眠をクリアした。広い窓から広い夜空がベッドの中から仰げる。こんな深夜だというのに夜間飛行が随分飛んでいるのには驚く。

5時に目が覚める。朝焼けの空が綿の帯のように美しい。体温、血圧、酸素、朝食、吸入と忙しい。三人の先生が代わる代わるに。「どうしますか?」。とりあえず夕方一端退院して連休明けに相談させて下さい。中嶋先生が「今日がピークで、次第に熱も下るでしょう」と言われた通り、帰宅後には一気に36・9が35・7の平熱に落ちていた。ぼくに代って妻が風邪を引いていた。

2017.7.15
 頭とお尻だけで中は不眠の空洞。時々きれいな清流を鯉が泳ぐビジョンを見るが夢ではない。

アトリエには初夏の風が吹く。まだ咳は出るがこのまま自然治癒を待つ。

ソウル市立美術館で開催中のカルティエ現代美術財団展の立派なカタログを送ってくる。ぼくの現代美術家の肖像画が30点も掲載されている。このあと上海美術館に巡回されるはず。

しばらく事務所のツートンとパソコに会ってないので会いに行く。

2017.7.16
 睡眠が下手になった。声がかすれて、その上、下痢とはまいった。

絵を描かない日が続く。いつまでも寿命があるわけではない。重い腰はいつ上げるのだろう。

昼は山田さんと増田屋と風月堂へ。9月にクランクイン予定の「家族はつらいよ3」のストーリーを聞く。毎回今日の社会がかかえている問題がテーマである。次々回の作品はこのまま時代劇にしてもらいたいと思う。監督はまんざらでもなさそーだ。

体力をつけるために夕食は近所の和食屋でうなぎを食べる。
2017年7月21日 新聞掲載(第3199号)
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