世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集 / 岡和田 晃(書苑新社)RPGの概念を経由することで「批評」の拡張に成功した批評|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年7月24日

RPGの概念を経由することで「批評」の拡張に成功した批評

世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷 SF・幻想文学・ゲーム論集
著 者:岡和田 晃
出版社:書苑新社
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圧倒されるのはまず、数だ。触れられている作品数が尋常ではない。次に、幅広さへの驚きが来る。一体この人はこれだけ沢山の分野とどう出会ってきたのか。そしてそれは徐々に、納得へと変わる。ただ無造作に知識がひけらかされているわけではない。探索は必然的なものであり、見つけられた概念たちは、タペストリーのように大きなビジョンに織り込まれてゆく。『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷』は、そんな評論集だ。

著者の岡和田晃は、文芸評論家だけでなく、ゲームライターとしても活躍するオールラウンダー。本書にはこれまで岡和田が様々な媒体に発表してきた膨大な批評が並べられており、特に副題の通り、SF・幻想文学・ゲーム論に重きが置かれている。なお、ここで論じられている「ゲーム」は、コンピュータゲームも含んではいるが、主にアナログなRPGが中心。岡和田は小学生の頃からRPGに親しみ、二〇〇三年から企業イベントでゲームマスターの仕事をしていたという、筋金入りのRPG好きである。

本書のユニークな点は、SFを批評するのにゲームの概念を援用する、といった試みはもちろんのこと、政治・哲学・芸術などの知見を軽々と使いこなしつつ、「詩とRPG」といった珍しい組み合わせの繋がりを示すところにある。岡和田は領域横断的な経歴を存分に活かし、それぞれのジャンルを独立したものではなく、ダイナミックに交わるものとして描き出してゆく。

根底には、一風変わったこんな観点が存在する。「ゲームマスターとプレイヤーとの当意即妙によって進行されるRPGは、既存のテクストを解体―再構築し、静的なものではなく動的なものとして捉え直す意味で、高い批評性を有している」ために、「RPGの考え方を経由すれば、創作的批評としての応答が容易」なのだ(本書三頁)。このスタンスは、本書の様々な部分から読み取れる。

例えば、『定本荒巻義雄メタSF全集』について書かれた箇所では、荒巻のリバイバルは「さまざまな書き手が荒巻作品を批評的に取り上げるようになった、というところが発火源」(八八頁)だと分析されている。さらに荒巻自身が「テクストの校 訂という形で作品群の読み直しに参加している」だろうことから、この全集は「実質的には批評集・・・・・・・・でもある」(八三頁、傍点著者)とまで表現してしまう。なるほど、創作と批評が当意即妙なRPG的関係にあることを認識するだけで、「批評」の意味はさらりと拡張できてしまえるのだ。

あるいは、『オモシロはみだし台湾さんぽ』の書評。描かれる散歩術を、岡和田はAlternative RealityGame(ARG)に喩える。現実世界にゲームを重ね書きするARGと、見えるものを愉快に変貌させる散歩術には、たしかに親和性が読み取れる。こうした大胆な読み替えによって「ゲーム」の意味も拡張されるわけだが、散歩術を現実世界の批評の一種と考えれば、これもやはり「批評」のゲーム的側面を説明する具体例に成り得るだろう。

岡和田は、言葉を重視したRPG『ザ・ワンダー・ローズ・トゥ・ロード』を論じる際に、こう書いている。「言葉に意味を与えることと、「意味づけ」を「忘れる」ことのあわいを彷徨い」、「言葉を発する者たちの思考を、彼らが向き合う世界をも含めた形で「変容」させる」(二〇三頁)。RPGの概念を経由することで、作品の境界を溶かし、言葉の境界まで溶かしてしまう本書。通読すれば、無数の作品の海のなか、どんな海流が存在しているのか、立体的に知ることができるだろう。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月21日 新聞掲載(第3199号)
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世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷   SF・幻想文学・ゲーム論集/書苑新社
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