和菓子を愛した人たち / (山川出版社)「さすが」の一言  五〇〇年の歴史を湛えた和菓子の老舗、虎屋ならではの逸話が満載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 和菓子を愛した人たち / (山川出版社)「さすが」の一言  五〇〇年の歴史を湛えた和菓子の老舗、虎屋ならではの逸話が満載・・・
読書人紙面掲載 書評
2017年7月24日

「さすが」の一言 
五〇〇年の歴史を湛えた和菓子の老舗、虎屋ならではの逸話が満載

和菓子を愛した人たち
編 集:虎屋文庫
出版社:山川出版社
このエントリーをはてなブックマークに追加
和菓子を愛した人たち()山川出版社
和菓子を愛した人たち

山川出版社
  • オンライン書店で買う
本文のラストにある「森茉莉と有平糖」を読み終えた感想は、「さすが」のひと言につきます。『虎屋』さんがなさずして、だれがこれだけ貴重な一冊が作れたでしょう。本書に散りばめられた、古代菓子を再現した写真を食い入るように眺めたおかげで、和菓子についてたくさんのことを学びました。

全九つで構成された第一章、「文学の名脇役」の見出しは、紫式部がトップバッターをつとめます。とうぜんながら『源氏物語』の一くさり、蹴鞠の後に食べたという椿餅が登場。同じ章の最後を、三島由紀夫らしく菊形の干菓子が締めます。第二章の「あの人の逸話」にいる啄木についた、「―壮大なる言い分」の小見出しが読み手の好奇心をくすぐります。「氷を食べることは人間のエゴイズムだ」と批判しつつ、ちゃっかりかき氷を食べていたと記されているのですから笑えます。第三章の「心が通う贈り物」に収められている、手土産に込められた、もらった人と差し上げた人たち十三人それぞれの心意気は、モノ余りの私たち現代人が心の底から憧れる本当の贅沢がほとばしります。大正から昭和にかけて活躍した三菱財閥の総帥、岩崎小弥太の夫人が考案し、後に「ホールインワン」の菓銘がついて今に至るロングセラーになったエピソードなど、『虎屋』さんならではの逸話に他なりません。

西の五ツざしに対して江戸の四ツざし団子のくだりを述べる第五章に続いて読み進むうちに、一九〇頁で「蓬が嶋」に行き合ったときは、机の下の足がついつい小躍り。紅白の水引き解いて箱を開け、説明書きに従ってカットすると赤、白、緑、黄、紫の色も鮮やかな子饅頭が出現するそれは要予約。外人受けすると言っては無粋ですが、ユネスコの無形文化財に指定された和食の様式美を体現する優れものです。

各章のおわりに挿入されている<コラム>がまた秀逸で、情緒別に大胆に分類された内容を、「ヘエーッ!」的な心憎い豆知識で絞めてくれます。たとえば甘葛と呼ばれ、蔦の樹液を煮詰めたものだった古代の甘味料がやがて、量的には限られますが日明貿易で輸入されるようになった砂糖になります。お坊さんが麹で饅頭を作ったそうですから、ワインやはちみつを使った甘いお菓子がカトリックの修道院の専売特許だったフランスと、いみじくも状況が一致。

八代将軍吉宗の時代に砂糖黍の国内栽培が奨励されたこともあり、江戸時代後期になるとあらゆる階層が砂糖を使ったお菓子に親しむようになります。江戸が世界の百万都市だったことを思えば、わが国のお菓子のレベルが高いのも頷けるというものですね。

読み方として、本文と並行して二六二頁からの「和菓子の歴史年表」と、それに続く「人物別参考文献等」を参照すると、和菓子の全容がさらに明解になります。このあたりになりますと本書が、五〇〇年という歴史を湛えた和菓子の老舗だからこそ存在する「虎屋文庫」から誕生したことで、『虎屋』さんファンの私はワンランク上の読後感に浸るのでした。僭越ですが歴女を自認する私は、本書の版元が歴史書に強い「山川出版社」さんだったことに、歓びを隠せませんでした。

★とらやぶんこ=昭和四十八年に創設された虎屋の菓子資料室。虎屋歴代の古文書や古器物を収蔵するほか、和菓子に関する資料収集、調査研究を行う。年一回機関誌「和菓子」を発行。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月21日 新聞掲載(第3199号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事の中でご紹介した本
和菓子を愛した人たち/山川出版社
和菓子を愛した人たち
編 集:虎屋文庫
出版社:山川出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
人生・生活 > 食・料理関連記事
食・料理の関連記事をもっと見る >