よるのふくらみ / 窪 美澄(新潮社)窪 美澄著『よるのふくらみ』  青山学院大学 荒川 美咲|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年7月31日

窪 美澄著『よるのふくらみ』 
青山学院大学 荒川 美咲

よるのふくらみ
著 者:窪 美澄
出版社:新潮社
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よるのふくらみ(窪 美澄)新潮社
よるのふくらみ
窪 美澄
新潮社
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人は、いくつになっても人を愛することをやめることはできない。大人になっても苦しくて切ないのに、誰かを好きになってしまう。それが既婚者だったとしても。年齢を重ねるだけで、心も体も複雑化していく恋愛。小さい頃は好きという気持ちだけで好きな人を好きでいてよかったのに。

窪美澄さんの小説は、登場人物すべてが主人公だ。だれでも自分が主人公の物語を持っている。それをそのまま文字にしたのが、窪さんの小説なのだ。

商店街で幼なじみとして育った圭祐と裕太の兄弟と、みひろ。みひろと圭祐は恋人同士で、同棲しているがセックスレスだ。彼はセックスができない体質だったが、セックスがしたいみひろのために薬を使ってセックスをする。子供が欲しいわけではなかったが、みひろは圭祐の子を妊娠。しかし実は弟の裕太はみひろに惹かれており、その後みひろが流産してしまったことで事態は変わっていくのである。
『ふがいない僕は空を見た』でも、そうだった。誰かと必ず繋がって生きていること。それをまた実感させられてしまう。私にも好きな人と、家族がいて、人並みに悩みがあって、人並みに苦労して生きている。朝、電車で乗り合わせるお兄さんだって女子高生だっておじさんだって、それなりに苦しんで生きているのだ、と、改めて感じる。違う人の目線から見た私は、どんな風に見えているのだろうか。

みひろは圭祐とセックスの目的にズレがあることでうまくいってはいない。流産の後、みひろが後輩保育士の立花先生と飲む場面がある。立花先生は「自分にとって、全部相性のいい相手なんていないってこと頭ではわかってるけど。セックス以外は全部いいのに、それだけだめって、結構不幸じゃないですかぁ。でも、好きだからって、その人とするセックスもいいとは限らないし……」と言う。

セックスと子供を作るということはイコールだろうか。愛さえあればセックスはしなくても平気なのだろうか。窪さんはこの問題を“みひろ”という女性を通して描き出す。もしもみひろと圭祐の性別が逆だったなら、これほどまでにこの小説は心に訴えかける作品ではなかったのかもしれない、と思う。男性に性欲があるのは当たり前で、女性にはないものだ、とする風潮に逆らって描いているからである。女性にだって性欲は存在する。

私たちにとって性というものはデリケートで、しかし人間である以上、恋愛と切り離して考えることは不可能である。セックスと子供を作ることがイコールであったなら、避妊具は存在していない。かといって、愛とはセックスだろうか。これもまた違う気がする。20歳そこそこの私にはこれ以上はよくわからない。

みひろは結果的に圭祐とは別れ、裕太と結婚する。圭祐は転勤先の大阪で出会った風俗嬢と新たな恋が芽生えそうな気配を感じさせつつ、この小説は幕を閉じる。
「一人になりたくてこの町に来たのに、ほんとうに自分は一人なんだ、ということを思い知らされると、これから先、一筋の光も射さないトンネルの中をただ進んでいくだけの人生が続いていくような気がした。」どんなに人との関わりが辛くなっても人との繋がりを作らない、ということができない私たちは、苦しんで胸の張り裂ける思いをしながらも、誰かを愛していくのだろう。
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2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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