ツボ押しの達人 / 室積 光(講談社)才能に無自覚だった天才の物語  悪党と戦う達人レディが登場!|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年7月31日

才能に無自覚だった天才の物語 
悪党と戦う達人レディが登場!

ツボ押しの達人
著 者:室積 光
出版社:講談社
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ツボ押しの達人(室積 光)講談社
ツボ押しの達人
室積 光
講談社
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人は子どもの頃には、自分が何か特別な人間であることを願う。あるいはそう思い込む。成長するにつれて平凡な人間としての実像を自覚して、自分なりの幸福な居場所に落ち着く。それが大人というものだ。

平凡な大人になって、まったく自覚してなかった分野での天才である、との指摘を受ければさぞや痛快だろう。

『ツボ押しの達人』はそんな無自覚だった天才の物語である。主人公中根望来は、武術の天才だったのだ。

武術の天才というと、人はブルース・リーのような痩せマッチョの男性を思い浮かべるかもしれない。しかし、中根望来はモデル体型の女性記者である。

細身の女性に対する相手は油断するが、この美人はメッチャクチャ強い。半グレの若者はもちろん、本物のヤクザが束になっても敵わない達人レディだ。

用いるのは「昇月流柔術」。戦国時代より継承される実戦向きの武術だ。師匠は山本俊之、九七歳。スーパー爺ちゃんだ。そしてもう一人の師はその孫の寛奈三七歳。スーパー主婦あるいはスーパーママである。

人体にはまだ科学では証明されていない不思議な「ツボ」があり、そこを押すことで相手を制圧するのが主人公たちの戦い方だ。

そんな達人たちが正義のために戦うストーリーを考えたきっかけは、合気道の塩田剛三氏の、
「一番強い技は自分を殺しに来た人間と友だちになること」

という名言に接したときだった。強さを求めて修行してきた人の謙虚さと優しさ。非凡な才能に何一つ恵まれなった自分としては、この達人の言葉に感銘を受けた。要はかっこいいと思ったので、この名言と同じ矜持を持つ人物を描きたくなった。

それと同時にコンプレックスを抱えた凡庸な人物が、そんな天才への憧れから影響を受け、悩みから解放されて前向きに歩み始める姿も描きたかった。

若者が理想と現実のギャップに悩む場合、その多くが、
「自分が自分の思っている自分じゃない」

ことに発している。世間様でなく敵は自分の中にあるのにもがいているわけだ。結構な年配になっても社会や他人に攻撃的な人物は、実はこの悩みから脱していないのではなかろうか。

今ある自分を受け入れる。あるいは、計画通りにいかなかった人生に拘泥しない。その場合に必要なのは自信ではなく覚悟である。

戦争を体験した師匠からそんな示唆を受けたヒロインは、武道家としてだけでなく雑誌記者としても飛躍することになる。

日常での戦いが、肉体的な格闘の形を取るのは稀な出来事だ。ヒロインの戦いは悪党のツボを押しただけでは終わらない。彼女の次の戦いの物語を描きたいと考えている。(三二〇頁・六三〇円・講談社)

この記事の中でご紹介した本
ツボ押しの達人/講談社
ツボ押しの達人
著 者:室積 光
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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