天盆 / 王城 夕紀(中央公論新社)「架空の盤戯」×「家族」  少年マンガの王道バトルの面白さを小説に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年7月31日

「架空の盤戯」×「家族」 
少年マンガの王道バトルの面白さを小説に

天盆
著 者:王城 夕紀
出版社:中央公論新社
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天盆(王城 夕紀)中央公論新社
天盆
王城 夕紀
中央公論新社
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少年マンガの王道バトルもの、あの面白さを小説でできないか、が発端でした。やるならば小説でしかできないことの方が痛快だろうと、絵にしづらい「架空の盤戯」を題材に定めました。梗概や感想に「圧倒的疾走感」「熱量」という言葉が多いのも、この発端に拠るものだと思います。

小国に暮らす夫婦が、隣国の侵攻に騒動する夜、橋の下で赤子を拾うところから話は始まります。食堂を営む夫婦には実はすでに十二人の子がおり、赤子は彼ら兄姉の末子として月日を重ね育ってゆきます。小国は建国からの伝統をもつ盤戯「天盆」を有し、民の誰もが嗜む国戯であるばかりでなく、政の要職への登用も天盆の才で決されるが故に、人々は立身出世を胸に十二×十二の盤面の上で研鑽する、そんな中、拾い子の末子がまだ幼少にも関わらず天盆に異様な才を示していく……という筋書きで物語は動き始めます。

この小説は、「架空の盤戯」×「家族」という二題噺で、最後に辿り着く場所だけ決めて書き始めました。結果、「架空の盤戯」という絵にできない闘いを縦糸に、十三人兄妹と父母の「大家族」が織りなす物語を横糸にして、三百頁を一気に駆け抜ける物語に相成りました。最後の場所、この台詞に辿り着けば大丈夫、と定めたその台詞が何かは、読んで確かめてみてください。ぜひ。一気に読めますから、たぶん。
「架空の盤戯」をど真ん中に置いた長編小説、というあまり類のないだろう小説でデビューしたがゆえに、王城夕紀という小説家はある妙な指針を胸に置くことになります。即ち、すでにこんなに小説がある世界で私が新しい小説を書くのならば、「かつて小説で書かれたことのある領土があるとして、その領土を少しでも広げる」ものにしようと。「奇妙なフォームでど真ん中にストレートを投げる」という言葉にしたこともありますし、今ではこの言葉はもっと単純化されています。
「まだ見たことのない王道」を書こう、と。

二作目のSF『マレ・サカチのたったひとつの贈物』も三作目の青春小説『青の数学』も、ジャンルは様々ですがそれぞれにおける私にとっての「王道」です。それもこれも、デビュー作が『天盆』だったからの思い込み、という次第。
『天盆』文庫化をtwitterで呟いたときの反応に触れると、この小説は愛されているなあ、著者自身なんかよりずっと愛されている、と思い至ります。小説は世に出せばもう著者のものではない、とはその通りで、『天盆』が末永く可愛がってもらえるとよいなあと、今や著者にできるのはそう願いながら次の未知に虫取り網片手に出かけてゆくことばかりです。(三〇四頁・六〇〇円・中央公論新社)

この記事の中でご紹介した本
天盆/中央公論新社
天盆
著 者:王城 夕紀
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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