長谷川平蔵人足寄場 平之助事件帖2 決 意 / 千野 隆司(小学館 )主人公の眼差しから長谷川平蔵の姿を  生きるための、人々のささやかな思いを守る|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年7月31日

主人公の眼差しから長谷川平蔵の姿を 
生きるための、人々のささやかな思いを守る

長谷川平蔵人足寄場 平之助事件帖2 決 意
著 者:千野 隆司
出版社:小学館 
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長谷川平蔵というと、極悪人が怯える火盗改めの頭が思い浮かびます。町奉行所でも手を焼く盗賊を、問答無用に取り押えます。豪胆で荒々しいイメージがありますが、長谷川平蔵が我が国の法制史の中で残した功績は、そんなことではないと私は考えていました。

寛政二年(一七九〇)松平定信、長谷川平蔵によって建てられた『人足寄場』は、幕府の更生施設として幕末まで存続しました。

犯罪をなした者に罰を与える場ではなく、犯罪をなす虞のある無宿者を集めて、職業訓練をして生きる術を与えることを目的にしました。

それまで我が国では、罪を犯した者を罰する場はあっても、更生施設を本気で造ろうとした人物はいません。それまで幕府は、無宿人を佐渡へ送って水替え人足として酷使しただけでした。この考え方は、日本のみならず、当時の世界でも最先端と言っていいものです。

ただ人足寄場については、設立後は松平定信によって関わりを外されます。しかし気持ちは残っていました。更生施設は、ただ拵えただけでは形骸化して、本来の役目を果たせなくなります。

本シリーズは、長谷川平蔵の甥平之助(実在の人物ではありません)が町奉行所の人足寄場掛与力として赴任するところから始まります。これは、伯父平蔵の意を受けてのことです。制度として不備があれば、事なかれ主義の寄場奉行とも対立します。

ただ平之助は、独り者の身軽な身の上ではありません。幼子を残して妻に先立たれた、シングルファーザーです。正義感だけで闇雲に動く者ではありません。また長谷川平蔵は寛政七年(1795)の五月に他界しますが、この物語はその四月から始まります。重い病にある伯父平蔵の意志を受けて、甥の阿比留平之助は人足寄場を守るために奔走します。

この年の五月、江戸の町を暴風雨が襲います。建物は破壊され溺死者も出ます。人足寄場は、江戸の海に浮かぶ孤島にありました。

自然の脅威の前では、人の力など無力です。けれども何もできないわけではありません。力を合わせて、できることをしていきます。そのためには、お金も支援者も必要です。平蔵の助言を得て、江戸の町政を支配した町年寄三家にぶつかります。

生きるための、人々のささやかな思いを守るのです。その姿を描きたいと思いました。静かに心を燃やす長谷川平蔵の姿を、平之助の眼差しの中から感じ取っていただければと思っています。

更生施設は、具体的な成果がすぐに見えるものではありません。様々な試練に対し真っ正面から取り組み、育てていこうとする平之助の今後の活躍にご期待ください。(三〇四頁・六一〇円・小学館)
この記事の中でご紹介した本
長谷川平蔵人足寄場 平之助事件帖2 決 意/小学館 
長谷川平蔵人足寄場 平之助事件帖2 決 意
著 者:千野 隆司
出版社:小学館 
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2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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