緋の天空 / 葉室 麟(集英社 )〈女帝の世紀〉のキーウーマン  光明皇后の生涯における戦いの真実を|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年7月31日

〈女帝の世紀〉のキーウーマン 
光明皇后の生涯における戦いの真実を

緋の天空
著 者:葉室 麟
出版社:集英社
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緋の天空(葉室 麟)集英社
緋の天空
葉室 麟
集英社
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『緋の天空』を書こうと思ったのは、光明皇后が四十四歳のときの書とされる「楽毅論」を写真で見てからだ。王羲之の書を臨書したものだが、雄渾で筆勢が強く、(男性の書ではないか)と思った。書だけで判断してはいけないのだろうが、一流の政治家の書だと感じた。

光明皇后の人物像に興味を持つと同時に、光明皇后が生きた奈良時代は、元明、元正、孝謙、称徳(重祚)が女帝であり、〈女帝の世紀〉だったことも考えた。
古代の推古、皇極、斉明(重祚)、持統を加えれば、古代史に女帝は目白押しだ。江戸時代には明正、後桜町がいる。

天皇は男でなければならないというのは、明治維新後、天皇が薩摩、長州に擁されて、京から東京に移った(遷都の詔は発せられていないから正式の都ではない)後に定まったことだ。われわれは、明治以降の考え方に縛られて天皇についての見方を狭められているのではないだろうか。個性豊かで政治の責任を負う気概を持ち、手腕を振るった女帝は多い。女帝達の業績を無視することは歴史をないがしろにすることでもある。だが、女帝について書くことは、なかなか難しい。だからこそ光明皇后を主人公に書こうと考えた。

聖武天皇の皇后となった藤原光明子は、古代政界のフィクサーとも言うべき藤原不比等の娘で、母は、キャリアウーマンの元祖である女官の県犬養橘三千代だ。

さらに光明子の娘は女性として初めて皇太子となった孝謙(称徳)天皇である。仏教を篤く信じ、悲田院、施薬院をつくるなど当時の社会福祉事業を行った光明子は、〈女帝の世紀〉のキーウーマンに違いない。

小説として描くにあたっては、できるだけ想像を膨らませた。光明皇后をめぐって起きる事件の大半はフィクションである。

しかし、それは光明皇后の生涯における戦いの真実はこういうものだったのではないか、という思いを込めた。

事実としてこうであった、とは言わないが、同じような煩悶、苦闘はあったのではないかと思う。

奈良、興福寺の阿修羅像のモデルは光明皇后ではないか、という説がある。

毅然として風に向い、闘おうと決意した少年の顔だ。

それは実際の光明皇后の顔とは違うかもしれない。しかし、この説を知ったとき、わたしは納得するところがあった。

光明皇后は風の中を駆け抜けた少女ではなかったか、と想像した。

現代、女性宮家の創設や女性天皇について様々に議論されるが、男性であるか女性であるかを資格とすることにどのような意味があるのだろうか。問題はその地位にふさわしい生き方をするかどうかだろう。

光明皇后の人生にあらためて思いをいたしてもらえればと思う。(三八四頁・本体六八〇円・集英社)
この記事の中でご紹介した本
緋の天空/集英社
緋の天空
著 者:葉室 麟
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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