十角館の殺人 <新装改訂版> 書評|綾辻 行人(講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年7月31日

講談社文庫
一〇〇万部突破! 本格ミステリ復興の階
綾辻 行人著『十角館の殺人』〈新装改訂版〉

十角館の殺人 <新装改訂版>
著 者:綾辻 行人
出版社:講談社
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祝『十角館の殺人』一〇〇万部突破!
いわゆる新本格ムーブメントの起点になり、本邦ミステリ史に新時代を画した綾辻行人さんのデビュー作が今年(二〇一七年)七月の重版でついに一〇〇万部を突破、と講談社の編集さんから聞きました。この一〇〇万という数字は、初刊ノベルス版に文庫旧版、文庫新装改訂版、YA!ENTERTAINMENT版の累計部数で、電子書籍版や海外翻訳版まで含めるとさらに大きくなるわけですが。

とまれ、セールスに跳ね返ってくる文学賞を受賞しただとか、映像化を機にメディアミックス効果で大増刷だなんてこともなく、一九八七年の初刊から三十年もの長きにわたってしぶとく(失礼!)売れ続けて到達した一〇〇万部なのが尊い。もちろん、同書をお読みの向きには言うまでもなく、どうしたって映像化は望めないんですからねっ。

とにかく、他人事なのに、めでたい。――いや、本格ミステリ復興の階を掛けてくれた『十角館の殺人』には一人のミステリファンとして一方ならぬ感謝の念を抱いているうえ、同書を嚆矢とする〈館シリーズ〉の第七弾『暗黒館の殺人』の文庫解説を任せてもらった身としては、まことに他人事とは思っていないのですよ。
『十角館の殺人』がこれほどのロングセラー作品となった理由は、やはりあの一行に求められます。文庫新装改訂版でいえば、四〇一ページ目をめくって次のページのちょうど頭に出てくるよう調整された一行――あの台詞の目眩く“驚きの強度”が本格ルネッサンスの時代の扉を押し開いたのだし、三十年後のいまも年若い挑戦者を打ちのめし続けているからでしょう。

すでに『十角館の殺人』は、新しい古典の地位を占めたと言っていいはずです。二〇一二年に発表された『東西ミステリーベスト100』(文春文庫)の国内編で堂々第八位にランクインしたのも、大胆不敵なトリックのいささかも衰えぬ“驚きの強度”と、そのエポック・メーキングな歴史的意義が認められたから。ミステリ入門者にまずお勧めするラインナップに『十角館の殺人』を入れておかなくては沽券にかかわるというものです。

――さて、歴史は繰り返すと言います。ひとつの文学的ムーブメントは有力新人の参入が途切れたときに終わるさだめで、二〇〇〇年代も半ばを過ぎた時期に自分は、「我ら本格ミステリファンはしばらくの冬ごもりを余儀なくされそうだ」と覚悟していたのです。

ところが、そんなネガティブな観測は二〇一〇年代に入ると嬉しくも吹き飛びました。青崎有吾君や白井智之君をはじめ二十代の本格派の有望株が陸続とデビューし、斯界は新本格ムーブメントが興隆していた時期のハツラツたる熱気を取り戻しつつあります。彼ら生きがいい若手の作品と並んで、綾辻さん二十六歳の時のデビュー作『十角館の殺人』は瑞々しさを競っているのです。
この記事の中でご紹介した本
十角館の殺人 <新装改訂版>/講談社
十角館の殺人 <新装改訂版>
著 者:綾辻 行人
出版社:講談社
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2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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