長い長い殺人 書評|宮部 みゆき(光文社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年7月31日

光文社文庫
「宮部みゆき」という作家を予言する一冊
宮部 みゆき著『長い長い殺人』

長い長い殺人
著 者:宮部 みゆき
出版社:光文社
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長い長い殺人(宮部 みゆき)光文社
長い長い殺人
宮部 みゆき
光文社
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時に小説家とはとんでもない予知能力を持った超能力者ではないか、と思うことがある。想像力が豊かであることは、イコール先を見る目があるということなのだろう。幼い頃に読んだSF小説そのままのような生活をしていることにふと気づき、慄然としてしまう。

語り手がすべて財布、という風変わりな小説が上梓されたのは一九九二年のことだ。八七年にオール讀物推理小説新人賞を受賞してデビューし、八九年に『パーフェクト・ブルー』(創元文庫)を初出版した宮部みゆきの十三冊目の小説だ。

デビューからわずか三年とはいえ、すでに『魔術はささやく』(新潮文庫)で日本推理サスペンス大賞、『龍は眠る』(新潮文庫)で日本推理作家協会賞、『本所深川ふしぎ草紙』(新潮文庫)で吉川英治文学新人賞と軒並みと言ってもいいほどのタイトルホルダーとなった大型新人の宮部みゆきにとって、本作品は、現在の「宮部みゆき」という作家を予言するような一冊なのだ。

その種明かしをする前に、簡単なあらすじを紹介しよう。

「保険金殺人」だと思しき事件が発生した。被害者は四人。彼らすべてに関係するのがレストラン経営者の塚田和彦とその愛人の森元法子である。十編の短編小説がこの事件を追い詰めていく。語り手の財布たちは持ち主の声や周辺の状況をみて、声なき声で事件の真相を推理する。しかし核心に迫る証拠は挙がらない。果たしてこの事件は、誰が何のために起こしたものなのか。

四〇歳以上の人なら「あの事件」を思い浮かべる人が多いかもしれない。八四年に起こった、いわゆる「疑惑の銃弾」事件だ。三浦和義という実業家が妻とロスアンジェルスに旅行中に暴漢に襲われ、後に妻が死亡した事件が、週刊文春の取材によって保険金殺人だ、とすっぱ抜かれたのだ。マスコミは過熱し、三浦和義自身もスターになっていく。最初の一編『刑事の財布』が「別冊小説宝石」に掲載されたのが一九八九年。まだ三浦事件が燻っていた時期である。

読者の誰もが「こいつが犯人だ」と思い込んだ中盤から、物語にドライブがかかってくる。人間の深層心理、いちばん暗い部分にピンホールのような光が当たる。反吐が出るほど汚い欲望を、胸にすとんと落とすように、宮部みゆきは物語に決着をつけて行く。

『火車』『理由』『模倣犯』『ソロモンの偽証』など、現代社会に起こる事件と人間の原罪を描いた作品の原点のひとつなのだと思う。そして現実も、一九九七年に起こった「神戸連続児童殺傷事件」をはじめとした、マスコミや警察に対して挑戦するような、劇場型の事件が発生し、インターネットが発達した今、その様相はさらに過激さを増している。作家は預言者ではないか、と私の思う所以である。

本書は一九九九年に文庫化され、二〇一一年に文庫新装版となった。累計で一一七万部を超えるロングセラーである。

宮部みゆきは今年デビュー三〇周年を迎えた。今でも新刊が出るたびに、新しい驚きと感動を与えてくれる。「長い長い健筆」を心から祈っている。
この記事の中でご紹介した本
長い長い殺人/光文社
長い長い殺人
著 者:宮部 みゆき
出版社:光文社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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