鴨川食堂 / 柏井 壽(小学館文庫 )小学館文庫 ―思い出の食、捜します― 柏井 壽著 『鴨川食堂』 |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年7月31日

小学館文庫
―思い出の食、捜します―
柏井 壽著 『鴨川食堂』 

鴨川食堂
著 者:柏井 壽
出版社:小学館文庫 
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鴨川食堂(柏井 壽)小学館文庫 
鴨川食堂
柏井 壽
小学館文庫 
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2012年の初夏だから、今から5年前のこと。柏木圭一郎というペンネームで、4年間かけて刊行してきた京都ミステリー16作を、ようやく完結させた。

少しのインターバルをおいて、次は短編を、という編集者さんのリクエストに応えるべく、あれこれと構想を練っていたときに、ふと思い付いたのが、食の思い出をテーマにした短編小説。

飽きっぽい性格なので、子どもの頃から日記が続いたためしがない。しかしその日に食べたものだけは10年以上記録し続けている。

朝はほとんど同じなので、昼と夜だけ。

どこで誰と食べたかまでは面倒なので書かない。
―某月某日 昼:オムライス(ケチャップ味) 

夜:鶏ムネ唐揚げ(塩味)、鶏ササミ酒蒸し(ポン酢)、皿うどん、赤ワイン4杯―

といった感じだ。これだけ読み返せば、たいてい誰とどこで食べたか、どんな雰囲気だったかを思い出せる。加えてその日の出来事や天候までも蘇ってくるのがなんとも不思議。

きっと食というものは、思い出の箱を開ける鍵のようなものなのだろう。ならばそれを物語にしてみればどうか。

そこから生まれたのが「鴨川食堂」。

父と娘が営む食堂は、京都駅近くの路地裏にあって、その奥には探偵事務所がある。

普通の食堂として利用するのは地元の京都人。探偵事務所があることも知らない、という客も少なくない。

そして目的が食堂ではなく、探偵事務所という客が探しているのは食。
―思い出の食、捜します―という食雑誌の一行広告を見てやってくる依頼人。探し物は珍奇なものではなく、至極ありきたりの食。

たとえば海苔弁。高校生のときに、父親が毎日作ってもたせてくれたもの。どこにでもある海苔弁だが、父親が作ってくれたそれは、シンプルながらどこにもない味。

探偵事務所の所長である娘の鴨川こいしが、依頼人の男性から、記憶を引っ張りだし、細かく聴き取る。それをもとに、元刑事の鴨川流が、刑事時代の経験と、鋭い勘を生かして捜しだす。

捜しだされた海苔弁を食べた男性は、当時それを作ってくれた父親の心情を知り、思いを深くする。

あるいは洋食店のビーフシチュー。依頼人は老女。遠い昔、いきなりプロポーズされたことに困惑し、食べている途中で店を出てしまった。

今はなき名店の味を鴨川流が再現し、それを食べた老女は、プロポーズした相手の男性の心に触れ、懐かしい思い出に浸る。

食を捜す探偵は、すなわち心を捜す探偵なのである。次なる依頼人はどんな食を捜しているのか。著者自身が愉しみにしている。

この記事の中でご紹介した本
鴨川食堂/小学館文庫 
鴨川食堂
著 者:柏井 壽
出版社:小学館文庫 
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年7月28日 新聞掲載(第3200号)
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