アルファ / イェンス・ハルダー(国書刊行会)絵を組み合わせ内容を語る 様々な宗教や民族文化に由来する図像を随所に挿入|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2016年8月5日

絵を組み合わせ内容を語る 様々な宗教や民族文化に由来する図像を随所に挿入

アルファ
出版社:国書刊行会
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表紙をめくると、まっ白なページ。ん? 何かの間違いか? よく見ると、ページの中央に、シミのような黒い点が一つ。そのページをめくると今度はそのシミが少し大きくなっている。まためくると親指程度の大きさに成長している。ははあ、とこのあたりで察しがつく。どんどんシミは大きくなって、ついに見開き全体を覆うほどになると次のページで、どかん、と破裂。そう、宇宙の誕生がパラパラ漫画風に表現されていたのだった。判型はA4変形で、見開きだとほぼA3サイズ。ビッグバンの場面は視野いっぱいに広がる。かなりの迫力で、没入感もある。

本書は、宇宙開闢から人類誕生の直前まで(地質年代でいえば新生代まで)をイラストで描いた、自然科学漫画である。この種の科学読み物では、親しみやすいキャラクターが出てきて、吹きだしの中で豆知識を披露したり、理解を助けるポイントを挙げたりする表現をよく見かける。だが、本書にそういう要素は一切なく、絵を組み合わせ内容を語らしめる工夫がなされている。

たとえばカンブリア紀を扱うページでは、奇怪な形をした生物を紹介する一連のシーンが続いた後、突如、現代の建築現場でクレーンが運搬している巨大コンテナや、大都市のビル群などを描いたコマが挿入される。これは、その時代に固い殻を獲得した生物が海中のあちこちで密集して社会を形成していた様子のメタファー。生物は、見た目は変わっても、いつの時代も同じことをくり返しているのだ。

科学的事実の羅列だけだったら本書はずいぶん無味乾燥だったはずだ。しかし様々な宗教や、アボリジニ、イヌイット、ケルト人などの民族文化に由来する図像が、随所に挿入されているおかげで退屈しない。

古今の芸術作品の引用として著者が描き起こしたイラストも多用されている。著者がドイツ人なので、ドイツを中心にヨーロッパの画家の作品が多いが、日本からも北斎の富嶽三十六景から「神奈川沖浪裏」や、田中政志の漫画『ゴン』から恐竜の主人公ゴンが採用されている。『ゴン』を読んでみたくなって、電子版を購入し、しばし読みふけった。引用元からオリジナルをたどって、知識を広げられるのも本書が提供する楽しみの一つだろう。

所々コマにつく解説は直訳調。もっと大胆に意訳してもよかったのではないかと思う。
本書は三部作の第一部。人類の歴史は次作以降で語られるという。著者がどんな図像を収集、再構成するのか、楽しみだ。(菅谷暁訳)
この記事の中でご紹介した本
アルファ/国書刊行会
アルファ
著 者:イェンス・ハルダー
出版社:国書刊行会
以下のオンライン書店でご購入できます
2016年8月5日 新聞掲載(第3151号)
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