安倍政権 終わりの始まり  二枚舌、自己喪失、厚化粧の民主主義|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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論潮
2017年8月8日

安倍政権 終わりの始まり 
二枚舌、自己喪失、厚化粧の民主主義

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ここひと月の論壇誌の多くが、都議選とその影響を見据えて特集を組んでいた。もちろん選挙前の発行だ。衝撃の結果は各誌の予想を超えていたかもしれないが、政治をめぐる諸問題が鋭く抉り出され、全般的に読み応えがあった。安倍首相は内閣改造で乗り切りたいようだが、支持率急落の主因は首相自身の資質にある。今の世論は閣僚交代よりも首相退陣、“安倍やめろ”だ。

(1)加計疑惑は問題だが、その根幹たる国家戦略特区それ自体の無惨さが暴露されている(郭洋春、奈須りえ、内田聖子「国家戦略特区の実相とは」『世界』八月号)。第二次安倍政権が鳴り物入りで始めた特区制度は、「岩盤規制の全てを壊す」ことで「世界で最もビジネスがしやすい」場所を創出し、「GDP六〇〇兆円を達成する」との触れ込みだった(内田氏・郭氏)。四年も経つのに「結果が出ていない」。

「外資」は「一件も入っていません」。世界一のビジネス環境は「表看板」にすぎない。首相の二枚舌はいまや一億総周知の事実だ。集団的自衛権は平和安全法制、共謀罪はテロ等準備罪、オスプレイは不時着、南スーダンでは衝突、多くて書ききれない。特区に参入したのは「竹中平蔵さん」などで、「実態」は「縁故主義的なばらまき、首相の「お友だちへの利益供与」の手段」、「首相周辺」の「私利私欲のための制度」だ(郭氏)。「飽和状態」の「獣医学部の新設が「新しい成長産業」につながるはずもな」い(内田氏)。

特区制度の「最大の特徴」は「官邸・首相のトップダウン」にある。「総理が指名しただけ」の特区諮問会議メンバーは、「計画を受け付ける立場」ながら「自身で応募者にもなってい」る(郭氏)。「論外」の「利益相反」だ。「莫大な税金」を「投入」して権力寄生者のために「「治外法権」を作っているにすぎない」のが、「アベノミクス」の「第三の矢、成長戦略というものの内実」だ(郭氏・奈須氏)。

「効果が出ないのはまだ規制緩和が足りないから」と首相やお友だちは言い立て、「さらに次々と規制緩和を進めていこうとする」(郭氏)。「行き着く先は、完全な市場原理主義社会」だ。かつて同じことが、ミルトン・フリードマンの弟子らによってチリで進められ、当地の国民生活は崩壊した。新自由主義の亡国政策だ。

(2)政権批判は自民党内からも出ている(村上誠一郎「安倍首相が自民党を劣化させた」『文藝春秋』八月号)。「過剰」な「獣医学部新設に便宜を図る」べく、首相の「周囲が「官邸最高レベルの意向」とやらを振りかざしていると疑われ」ているが、「法治国家とは言えない」。韓国では「大統領が「お友達」に便宜を図った」かどで「罷免されました」。

安倍政権は「国家公務員法の改正」により、「内閣人事局を通じて」幹部官僚の「人事を掌握」した。局長は疑惑の渦中にある萩生田光一議員で、落選中は加計学園の客員教授だった。莫大な税金を投入して、獣医学部なる浪人の口凌ぎや役人の天下り先を作るのか、などと「政権に異を唱える」なら、「人事権をいつでも発動できるという脅しが効いて」、霞が関は忖度の空気に覆われる。結果、「許認可や補助金の交付などが時の権力者の意向によって左右されやすくなる」。

「権力の一極集中」、つまり独裁だ。「共謀罪」を「委員会採決を経ず」に成立させたり、「安保法制」で「独断で憲法解釈を変更」するなど、「立憲主義の否定」も繰り返された。村上氏は首相を「ヒトラー」になぞらえる。「安倍一強」に「一刻も早く手を打たなくてはいけない」。そのためには「人心を一新するしかありません」。

村上氏は党内に「勉強会」を立ち上げた。「アベノミクス」は「賞味期限切れ」だと氏は一蹴する。「財政出動も金融緩和も限界」で、「肝心の成長戦略がいまだ提示されていません」。「自由闊達な党内議論の場を取り戻し」「政策論争」を活発に行なうのは、日本のみならず自民党自身にとっても良いことだ。が、議員も「トップに逆らえば公認を外され、刺客を送られ、人事でも冷遇される」等々の“脅し”のもとにある。国民の声が後押しになろう。内閣支持率をより下げることだ。

(3)自民党内が活性化しても、擬似政権交代にしかならない。本来なら野党が受け皿であるべきだ。『中央公論』八月号が民進党の特集を組んでいるが、絶妙なタイトルだ。「民進党蘇生計画」。呼吸が停止していると。

幹部級議員が多くの紙幅を費やし、与党批判を繰り広げる(田原総一朗、玄葉光一郎、福山哲郎、玉木雄一郎、山尾志桜里「なぜ私たちは支持を得られないのか?」)。野党の重要な役割だが、この特集で読者が知りたいのは、民進党自身のビジョンだろう。「自民党に民進党はどう対抗しますか?」との田原氏の問いに、「民進党の今一番の問題はアイデンティティ・クライシス」にあると玄葉氏は答える。象徴的なやりとりだ。「政策が十分に練り切れていないし、伝えられていない」。練れないのなら、伝える以前の問題だ。蓮舫氏の代表辞任を受け、来月にも新体制が発足予定とされるが、自己喪失のままでは永遠に蘇生はない。むしろ永眠だ。

(4)都民ファーストの会が国政進出を匂わせている。民進党を一気に出し抜くかもしれない。だが保守派の論客から批判が出ている。小池百合子氏は「古くさい都議会」の「おっさん政治」をやめさせると言うが、「彼女が「代表」として、「都民ファーストの会」と一体に」なれば、その「都政こそ「ソンタク」政治」だ(櫻井よしこ「「自分ファースト」の政治を憂う」『新潮45』七月号)。同様に、都知事の「提案をなんでも賛成する議会」は「大政翼賛政治」だ(犬伏秀一「拝啓 小池百合子さま 「自分ファースト」になっていませんか?」『正論』八月号)。

保守派なら翼賛政治に大賛成と思いきや、小池氏の小天皇化が許しがたいのか。ともあれ民主主義としてはもっともな批判だ。つまりは地方自治の二元代表制の形骸化への懸念で、小池氏もすぐ代表を辞した。が、新代表の野田数氏は、小池氏の右腕的な特別秘書だったから、代表交代は形式的色彩が濃い。それに野田氏は都議時代に、大日本帝国憲法の復活請願をした人物だ。小池氏も日本会議と長く昵懇だった。代表交代の党内手続きも密室政治的に不透明で、知事のモットーたる公開姿勢に反する。天皇ファーストという超一元論の素顔を、この政党は有権者にひた隠している。

二枚舌、自己喪失、厚化粧。議会政治としては笑えない顔ぶれだ。二者は帝国主義的で、一者は息がない。とうに死んでいる司法はさておき、第四の権力たるメディアは生きているか。

(5)菅義偉官房長官に「23回も質問」した遊軍記者の「追及」が大きな反響を呼んだ(横田一「菅官房長官を追いつめた東京新聞・望月衣塑子記者」『創』八月号。記者会見の主要部分が掲載されていて、資料的価値もある)。『週刊新潮』が「官邸は望月記者の身辺を洗うなどして彼女を抑え込もうとしている」と報じるや、「望月記者を守って」との「激励」が「全国」から「東京新聞に寄せられた」。「出会い系バー報道」で「読売新聞は超えてはいけない一線を超えた」が、横田氏に答えて望月氏が言うには、東京新聞は「政権を監視する立場」で「腹をくくってくれました」。同紙は以前より自立的な調査報道で知られる。翼賛報道の対極だ。

望月氏によると、「記者クラブの総意で私や東京新聞に抗議を出そうとしたのです。繰り返し、同じ質問をして場を乱したと」(今西憲之「ついに強制捜査!「安倍疑惑」めぐる緊迫展開」『創』)。だが「記者クラブの一人」によると、「官邸への忖度で抗議と一度はなった」が、「望月記者を称賛する声が日ごとに高まり、まずいだろうという声が出て取りやめた。情けない」。

あの追及会見を機に、文科省は文書の再調査に追い込まれたが、「記者が以前から国民の疑問をぶつけていれば、再調査の動きはもっと早く作れた」(望月氏。横田氏前掲)。かつてNHKは、特定秘密保護法案の国会審議を一切伝えず、ふなっしー特集を夜のニュースで延々と流した。子供騙しの報道ごっこは今も続いているようだ。

(6)日本の民主主義はなぜこうも脆弱なのか。佐々木俊尚、原武史「政治の混迷と民主主義のゆくえ」(『潮』八月号)は、この点で示唆に富む。「平成」は「被災地や激戦地への度重なる行幸啓によって、天皇・皇后の存在感が大きく浮上した時代と言え」る(原氏)。天皇が「前面に出てくると」、「途端」に「戦前さながらの「君民一体」の関係が、全く同じ形ではないにせよ再現されてしまう」。その光景は行幸啓で「くり返し視覚化されてき」た。「君主は民心を本とする政治を」行なうべしとの「儒教の影を感じます。」

「七〇年以上に及ぶ戦後民主主義の歩みや、政治哲学を社会に根付かせようとしてきた人々の努力は、いったい何だったのか」(佐々木氏)。国民とともに歩む皇室というより、国民が皇室とともに歩まず、数歩下がっている。安倍政権の終わりが始まっても、臣民意識を国民が育み続けるなら、日本の民主主義は暗いままだろう。

2017年8月4日 新聞掲載(第3201号)
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