八重山諸島の稲作儀礼と民俗 / 石垣 繁(南山舎)民俗・歌謡研究の優れた論考  在野の研究者としての強みを生かす|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年8月7日

民俗・歌謡研究の優れた論考 
在野の研究者としての強みを生かす

八重山諸島の稲作儀礼と民俗
著 者:石垣 繁
出版社:南山舎
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本書の構成は、「第一章 八重山諸島の稲作儀礼」「第二章 八重山の神歌」「第三章 八重山の民俗」という三章からなる。いずれの論考も密接に結びついている。残念ながら民話研究は割愛されているが、それでも本書は、著者の研究の集大成であるといってよい。

八重山の民俗儀礼や歌謡研究は柳田国男・伊波普猷・喜舎場永珣以来、多くの研究者が優れた成果を積み重ねてきた。だが著者の強みはなんといっても在野の研究者ということにある。その一つが、ますます変化する八重山の言葉や習慣、祭祀儀礼と歌謡を肌で感じ、たえず観察してきた。もう一つが、研究者としてだけではなく、八重山、とくに石垣島白保のネイティブ・スピーカーでもあるということだ。すなわち、研究者でありながら、同時に自らも研究の対象者でもあるという二重性をもつ、きわめて有利な存在である。

それだけではない。著者は地元在住の研究者として一九六九年には八重山郷土史研究会(現在の八重山文化研究会)を立ち上げ、世代的な研究者の空白を埋めてきた。そういった環境が類書とはまた異なる優れた考察を生みだしている。

たとえば、第一章における八重山諸島に今も伝わる重要な種子取祭(タネドリサイ)の考察がそうである。本来は播種儀礼であるはずなのに、なぜ種子取祭と呼ばれるのか? 著者はこの素朴な疑問を二十年余にわたって粘り強く持続し、やがて文献と古歌謡「稲ガ種子アヨー」の詞章構造を分析することによって独自の結論を導き出した。それは種子取が文字どおり稲叢から種子を取る種子取儀礼であり、それがいつしか田に種子を下ろす播種儀礼に変容した、という新しい見解である。

第二章では、八重山地方の収穫儀礼の場でうたわれる神歌の歌形や歌唱法、さらにうたに伴う儀礼的所作について詳細な分析を行い、祭と神歌に現れた豊穣に対する感謝と翌年への予祝を祈るこころを描き出す。この章からは島びとの祈りの深さが伝わってくる。

第三章は本書の半分近い分量を占める。かつての村番所オーセー内に祀られている火の神(ヒヌカン)について性別、祭祀集団の本家、分家の関係や名字について考察をすすめ、口上の内容を紹介している。このように、火の神は現在でも奄美や沖縄諸島全域にみられる重要な信仰である。ところが著者はここでも、火の神信仰が実は道教のかまど神信仰と混同されているとする。

また、著者の出身地である石垣島白保の真謝井戸(マジャンガー)は沖縄でよく知られた民謡「シンダスリ節」にもうたわれているが、その類歌や井戸の名称の由来となった人物に対する諸説への疑問、本来の所在地について著者独自の説を立てている。

しかし注目すべきは、「南島の牛馬籍と耳判」である。かつては牧祝いという牛馬の繁殖祈願のときに持主を明らかにする耳判をつけたが、それも散逸、消滅しつつあった。こうした状況に危機感を覚えた著者は、聞き取り調査を精力的にすすめた。その成果としてさまざまな耳判の種類が図版として本書に収録されており、資料としても貴重である。

ほかにも、西表島の節祭(シチ)や八重山各地に登場する弥勒(みろく、みりぃくなどと呼ぶ)信仰の受容と変容、各地域の相違点などについての興味深い論考がある。

本書には著者の四十年にわたるフィールドワークに裏付けられた八重山諸島の稲作儀礼の事例や民俗儀礼、古歌謡などが豊富に収められている。そのうえでいくつか紹介したように著者独自の説が示されている。

八重山諸島に限らず、沖縄や日本の民俗研究、歌謡研究の上で、通過しなくてはならない基本的な研究書として、本書は有益で確かな足跡を残すはずである。

なお別刷りの付録として、著者と萱野茂氏(二風谷アイヌ資料館長・故人)との対談「アイヌ民族とウチナンチュウの教え」も添えられている。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年8月4日 新聞掲載(第3201号)
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