連 載 映画/映画作家/映画批評 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く(18)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」
2017年8月8日

連 載 映画/映画作家/映画批評 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く(18)

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ドゥーシェ(左)とミシェル・ロンズデール
JD
 映画が二重性の上に成り立っているということ。これは、ゴダールの『勝手に逃げろ/人生』の主題となっていたので、この作品の非常に重要な一つのシーンを例に説明しましょう。ホテルの一室に男が娼婦(イザベラ・ユペール)を呼ぶシーンがあります。裸の男はベッドの上に腰掛けながら誰かと電話をしています。部屋に着いた娼婦を自分の目の前に呼びつけ、尻を見せるように命じます。パンツを脱いだ女の背中に目をやり、尻に視線を移します。そして、電話を切り、メガネをかけ、ケツの穴を覗きます。女はというと、窓の前で、外の世界を見つめます。
要するに、ゴダールは見つめるための二つの方法があることを示しているのです。一つはケツの穴を覗くということです。それは閉じられたものです。もう一つは開かれた窓を通じて現実の世界を見つめるということ。このシーンは非常にゴダール的ユーモアが効いたものです。ゴダールは、そうした画面を通じて、映画の定義を観客に伝えているのです(笑)。
HK
 最近、ジャン・ユスターシュに関しても似たような話をしていましたね。ドゥーシェさんが出演していた作品です。
JD
 ユスターシュも『不愉快な話』で、似たような考えを主題としていました。現実とは虚構にすぎないという考えです。現実は、実際には人生の一部としてしか存在していません。人生の中で、どのように世界を見つめるか。「起きること」をありのままに見つめることができるか。「起きたこと」を想像したいのか。これがこの作品の主題でした。このような作品を作るにあたって、必要だったのはいくつかの証言だけです。同じ光景を見た数人の目撃者、つまり証言者が必要でした。それでも証言の内容が、なされる人物によって異なることは周知の事実でしょう。同じことを語っていても、同じ証言にはなりません。人々は似たようなものを見たはずなのに、同じものは見てはいません。暗黙の了解です。これは非常に面白いアイデアでした。

映画とは知ることの芸術です。そして、世界に対する見方そのものとも言ってよい、視線の二重性についての芸術です。
HK
 「表象は現実ではない」と言ってしまってもいいのでしょうか。
JD
 もちろんその通りです。
HK
 少し歴史的な話をすると、70年代の終わりに、『カイエ』の中で、68年の五月革命の少し前から続いていたマオイズムの影響から脱却し、商業映画に戻る瞬間が訪れました。ざっくり言い換えると、映画が階級闘争や諸々を表現する現実のメタファーであると信じていた時代から、表象されたものはやはり表象にすぎないと方向転換した時代です。政治的映画ではなく、スピルバーグやコッポラのようなアメリカ映画を再度、そして10年以上に渡って無視し続けたイタリアやフランスの作家を、批評の中心に据えました。その流れの中で、政治的流行に与することなく、長年変わることなく「映画」の側にいた、ドゥーシェやロメール、トリュフォーのような、かつての『カイエ』の批評家たちも引き戻されましたね。
JD
 そうですね。確かにそのような歴史の流れを辿ってきました。どのような場合にせよ、芸術とは解釈です。芸術は科学のように何かの基準によって世界を解明しようとするものではありません。それでも、私たちが常日頃目にするものは、世界についての様々な解釈の形です。

表象されたものについての問題の根本には、科学と芸術の認識方法の違いがあると思います。科学とは客観です。芸術は主観です。科学とは、対象の外側に立ち、その対象を調べる方法です。科学においては、外から対象を眺めるということが重要です。観察対象の皮を一枚一枚めくっていくようにして、論理によって理解していくことが不可欠です。科学とは対象の内部へ徐々に浸透するようにして、物事の実態を探る方法です。科学とは外面化であり、客観性であり、「起こること」の理論化を目指すものです。芸術はその反対です。芸術は対象の内部から生まれます。内的認識であり、外的認識ではありません。科学と芸術は決して同じ方法ではありません。それどころか対立する方法であるとも言えます。

<次号へつづく>
〔聞き手=久保宏樹/写真提供:シネマテーク・ブルゴーニュ〕
2017年8月4日 新聞掲載(第3201号)
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