地方紙の眼力  改憲・安全保障・震災復興・原発・TPP・地方創生 / (農山漁村文化協会)なぜ中央へ厳しい目線を向け続けるのかという問いへの回答 ファクトに立脚して主張もする姿勢を見せる|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年8月7日

なぜ中央へ厳しい目線を向け続けるのかという問いへの回答
ファクトに立脚して主張もする姿勢を見せる

地方紙の眼力  改憲・安全保障・震災復興・原発・TPP・地方創生
編 集:農山漁村文化協会
出版社:農山漁村文化協会
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地方紙がどんな報道を展開しているか。全国紙(中央紙)といかなる差異を持っているか。それらが広く知られるようになったのは、2005年前後からである。インターネットの興隆により、各地方紙がHPを設けたり、ブログやツイッター、フェイスブックなどで読者が紙面を紹介したりといったことが寄与した。地方紙の優れた連載・企画記事を1冊にまとめた拙著「日本の現場 地方紙で読む」(2010、2012、2016の各年版=旬報社など)もささやかな力になったかもしれない。

しかし、地方紙と全国紙の差異がどこから生まれているか、地方紙がどんな報道を続けているかを当の編集幹部らが自らの口でていねいに語り、1冊にまとめ上げた網羅的な書籍は、筆者の知る限りなかった。まず、その点でも貴重な存在である。

本書の特質は「『地方紙はなぜ、日本政府(中央)の行為に厳しい目線を向け続けるのか』という根本的な問いへの回答書」と表現できよう。

この問いに対する回答は従来、「各省庁など『中央』の決定に伴う諸矛盾は周縁でまず顕在化する。だから地域と共にある地方紙はこの諸矛盾に正面から取り組まざるを得ない」と説明されてきた。

今やその説明だけでは十分ではない。東日本大震災後、全国紙やキー局が正面から権力と対峙する報道を弱め、権力との親和性を強めていく中、地方紙の鋭さはさらに増している。

例えば、青森県八戸市に本社を置く「デーリー東北」のケース。同紙は震災後、「天気の原子力 3・11の青森」を2年以上も連載し、核燃料サイクル事業の不安定さや使用済み核燃料をどうするのかといった問題を取り上げ、地域が原子力マネーに依存してきた体質にも切り込んだ。

同紙の川口桂子文化部長は本書に「東北から『違和感』を発信する」という小論を寄せ、震災後の議論は原発の賛否に終始し、核燃料サイクルと核のゴミ問題にまでは発展しなかった、と記している。要は「誰もが使う電力消費で生じる後片付けの部分は地方に押し付け、結局、“人ごと”とされたままである」という怒りが地方には残った。

デーリー東北はさらに「忍従だけの姿勢から意見主張へ」と階段を上がり、その姿勢を一段と強めていく。川口氏は書く。

「忍従だけでは首都圏の人びとの意識を喚起させられないのではないか。すがるように国の政策を受け入れた結果として振り回され、耐え続けてきた地方の姿勢も問われる。意見を出して主張していかなければ、問題を全員で共有する議論に広げていくことはできず、国の構造も変わっていかない」

足元で起きる諸矛盾をファクトとして伝えるだけでなく「主張もしていく」という意思表明である。

本書の「PART2 地方紙が訴える時代の争点」では、この川口氏をはじめ、10紙の編集幹部や記者らが小論を記している。これらを通読すれば、「ファクトだけでなく主張も」という立場は各地方紙に共通していることが一目瞭然だ。現実の出来事をファクトとして記しているだけはダメだ、ファクトに立脚して主張もしていくのだ、という強い姿勢である。それほどまでに地域は追い込まれているのだ。

本書のPART1では、神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏、早稲田大学教授の花田達朗氏ら5人の論客がそれぞれの立場から「今、なぜ地方紙か」を論じている。いずれも読み応え十分であり、示唆にも富む。ただ、全体を通じて「具体的にどのような方法で地方紙の記事を全国に流通させるのか」については十分な言及がなかった。「地方」という概念が権力との距離を示すのであれば、都会にも「地方」はあるのであり、そこの民意をどうすくい上げていくのか、についても言及は足りない。そこが「地方紙の連帯でジャーナリズムの危機を乗り越える」(花田氏)際の、現実的な宿題になると評者は考えている。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年8月4日 新聞掲載(第3201号)
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地方紙の眼力  改憲・安全保障・震災復興・原発・TPP・地方創生/農山漁村文化協会
地方紙の眼力  改憲・安全保障・震災復興・原発・TPP・地方創生
編 集:農山漁村文化協会
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