仕様管理者が仕様統括者が仕様承認者が日ごとに替わる サイレンが鳴る 堀合昇平「提案前夜」(2013)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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現代短歌むしめがね 第48回
2016年8月5日

仕様管理者が仕様統括者が仕様承認者が日ごとに替わる サイレンが鳴る 堀合昇平「提案前夜」(2013)

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コンピュータメーカーに営業職として勤務している歌人の一首。元祖コンピュータ派歌人である加藤治郎の弟子にあたるが、コンピュータというモチーフをSF的な想像力と結びつけていた師とはまったく異なり、リアルな会社員生活の一部としてコンピュータを詠む。それくらいコンピュータが社会に根付き、コンピュータなしでは社会が成り立たなくなったことの象徴といえる歌人だ。インターネットを使っている程度の一般人ではとてもわからない専門用語を使いまくるのも作者の特徴で、そのことが余計に「コンピュータ業界」のリアルを想像させてくれる。

「レビュアー」「アーキテクト」「オーナー」、いずれも一般社会での用法とコンピュータ業界での用法は大きく異なる。所有するのではなく承認するのが「オーナー」なのだ。そのくせをして、コンピュータ業界だろうが主体は同じ日本人である。言い逃れを繰り返して責任がたらい回しにされることだけは一緒だ。鳴ったサイレンは定時を告げるものかもしれないが、営業にとっては単なる残業の幕開けか、ひょっとしたら空襲警報の類にでも聞こえているかもしれない。

外目には時代の最先端を切り開いているかのように見えるIT業界が、いかにもな日本人たちで構成されているきわめて人間くさい世界であることを活写する「業界もの」短歌である。インターネットが現代短歌の風景を変えていっている背景には、こうした泥くさい現場の叫びがある。
2016年8月5日 新聞掲載(第3151号)
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