本の未来を探す旅 ソウル / 内沼 晋太郎 (朝日出版社)本の未来を探す旅 沸騰中!! ソウルの書店・出版ムーブメントの最前線|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 書評
2017年8月14日

本の未来を探す旅
沸騰中!! ソウルの書店・出版ムーブメントの最前線

本の未来を探す旅 ソウル
著 者:内沼 晋太郎 、綾女 欣伸
出版社:朝日出版社
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韓国社会は「一度火が点いたら沸騰するまで止められない」のではないかと、「はじめに」にある。その言葉は、出版界にも当てはまり、ソウルではこの数年でインディペンデントな「独立書店」が続々開店し、新しい「ひとり出版社」も増えているという。

本書は、まさに沸騰中の書店・出版ムーブメントの最前線にいる十数人にインタビューし、ソウルの本の「いま」を記録したものだ。一人あたりの文章量は多く、その人が書店や出版社をはじめるに至った経緯から、直面している課題まで丹念に聞き取っている。韓国特有の事情についても補足されていて、判りやすい。

弘益大学のある弘大エリアには、16店もの独立書店が集中する。そのひとつ〈THANKSBOOKS〉はデザイナーが営み、出版社から直取引で本を仕入れる。オーナーは、住民たちが集う「街のサランバン(居間)」にしたいと語る。また、詩人が営む〈witncynical〉では、オープン後2カ月で3000冊も詩集が売れた。「アナログ的な感性が見直されている」せいか、一人の詩人の詩集の一節を、客が筆写して一冊の手書き本をつくる試みが好評だという。ZINEやリトルプレスなどの「独立出版物」を扱う〈YOUR MIND〉は、独立出版物のブックフェアを主催したことがきっかけで、リアル書店をはじめた。

このほか、下北沢〈B&B〉に影響を受けたビールの飲める本屋、オンライン書店〈アラジン〉が経営する古書店、読書会を売りにする書店など、さまざまなスタイルの書店ができている。しかも、取材の数カ月後には二号店をオープンしたり、移転したり、取材相手が辞めて別のことをはじめていたりと、つねに変化しつづけている。

この独立書店ブームの背景にあるのは、2014年の「図書定価制」(日本の再販制)の強化だと、出版研究者のベク・ウォングン(白源根)は言う。これにより、小さな本屋がオンライン書店や大型書店に立ち向かえるようになったというのだ。

しかし、それだけでなく、「縮小社会」に入りつつあるソウルの人たちは、本屋に小さくて心地のいい居場所を求めているのではないか。どの独立書店でも、「本を媒介にするコミュニケーション」が売りになっているように感じた。出版も行うデザイナーは、大きなビジネスを目指すのではなく、「趣味嗜好、好みの共同体を作っていくのが出版の目的」と言い切る。日本以上にデジタル化が急速に進んだ韓国で、紙と電子書籍の割合が9対1にとどまっているのも、そこに理由があるのかもしれない。

私事だが、かつて在籍した「本とコンピュータ」編集室で、2000年に『コリアン・ドリーム! 韓国電子メディア探訪』(『別冊・本とコンピュータ』3)、2002年に特集「読書都市ソウル」(『季刊・本とコンピュータ』第2期第4号)を出すため、何度かソウルに取材に行った。本書の著者と同じように、そのときに私が感じたのも熱気とスピードだった。

ベク・ウォングン氏を除けば、本書の中に、15年前に私が会った人や書店や出版社は出てこない。彼らはいま、どうしていて、この独立書店ブームをどう見ているのか知りたいと思う。
本書の「昔の世代の人がやっている古い書店に今の人が行かない理由、それは新しくてきれいな空間のほうが正直好きだから」という発言は、日本の若者の本音でもあるかもしれない。そのことを認めつつ、「古い書店」の良さを継承していくことも必要なのだと彼らに訴えたい。
イベント

『本の未来を探す旅 ソウル』の刊行にともない、七月五日、東京・渋谷のスマートニュースイベントスペースで、ソウルから書店主を招き〈日韓の書店主による「本屋」トーク〉が行われた。上段では、古書や本に関するイベントを数々主催する南陀楼綾繁氏に本書の書評を、下段ではイベントの模様をレポートする。 (編集部)

上段左より、久禮、森岡、内沼氏、下段左よりイ、キム、ジョン氏

イベントには、ソウルからイ・ギソプ(THANKSBOOKS)、キム・ジンヤン(BOOKBYBOOK)、ジョン・ジヘ(sajeokinbookshop/私的な書店)、東京側は森岡督行(森岡書店)、久禮亮太(久禮書店)、内沼晋太郎(NUMABOOKS/本屋B&B)の、独立書店を営む六名が出演し、司会は内沼氏と共に今回の本の著者である綾女欣伸(朝日出版社)が担った。

はじめにソウルの書店員三人が、それぞれの活動をスライドと共に紹介した。

イ氏がTHANKSBOOKS店内で、地域のアーティストと組んで行うひと月に一度の展示会。地域のコンテンツを集める場所として、地域の人と共に成長する町の本屋を目指す。またグラフィックデザイナーであるイ氏は、ブックカフェや軍隊のある島の軍人向けの本屋など様々な本のある環境をデザインしている。

本と人をつなげる仕事を目指すキム氏は、ビールと本をつなげることを、日本の「本屋B&B」から学んだ。韓国ではチキンとメクチュ(ビール)を一緒に楽しむことを「チメク」と言うが、そこからチェク(本)+メクチュで「チェンメク」という新語を作った。チェンメクの文化は定着してきているという。

ジョン氏は、プライベートでパーソナルな、「私的な書店」を運営している。土曜日以外は予約制で、一時間一人だけの客と、お茶を飲みながら話をする。その後一週間で、その人にあった本を一冊選び、選んだ理由を書いた手紙とともに送る。「本処方プログラム」は一回五万ウォン(約五千円)。本に出会うきっかけ、本の世界への入口を提供したいとジョン氏はいう。

韓国の出版業界の状況について内村氏は「日本と似ていますが、むしろ悪い意味で先に進んでいます。彼らの言葉でいうと、出版業界は一度すでに崩壊し、だからこそ若い人達が、本を売るだけではない、新しい取り組みを始めた結果、ソウルに個性的な独立書店が増えてきている」と話した。

森岡氏は「イさんの取り組みで示唆的だと思ったのは、軍人と本の組み合わせです。もう一つはオリジナルのフォントを作って販売していること。革新的で、今後の広がりを想像することができました。キムさんのBOOKBYBOOKで、オリジナルの「チェンメク」という言葉が生まれたことには、既存の状況も言葉を変えることで新しくなると。ジョンさんの取り組みは、数万冊の本と一冊の本の深みがイコールになっている点に共感しました」と述べた。

続いて久禮氏から三人への質問。「ソウルでは二〇〇九年頃から、町の新刊書店の多くが失われたということですが、皆さんの身近にはまだ、オーソドックスでオールジャンルを持つ総合書店はありますか」。

イ氏は、「総合的な中規模な書店は、生まれる条件がそろっていません。韓国は日本よりも国土が小さいため、宅配便の届くのが速い。また三年前に著書定価制が出来るまでは、新古書は四〇~五〇%割引されて売られていたため、オンライン書店が活性化しました。

大型書店は出版社から直接本を仕入れ、そのかけ率は六〇~七〇%。小さい書店は取次を通すので、かけ率が約七五%。町の書店はどんどん潰れました。

図書定価制で割引率が一〇%までに固定されたのをきっかけに、ソウルに町の本屋が少しずつ生まれるようになりました。小さい本屋の経営者はアイデアで勝負するしかありませんが、最近では、単に本を買うということではなく、本を買う経験をしたいと、個性のある書店を探す傾向が出てきていると感じています」

さらに久禮氏は、「小さな書店の横の連携、協同組合は検討されていますか」

イ氏は「ソウルに本屋がたくさん生まれているのは、経済の低成長で、韓国が文化的に多様化している証拠。例えば事務所の横に本屋を開くような兼業も多い。今のところ本屋の組合を作ることに関心はないですね」

一方ジョン氏は、「組合は難しいけれど、町の本屋だけの特別カバーの本の作成をしました。全国の町の書店が一五〇店舗集まり、二千部作りました。この本は賛同した本屋でしか買えないという仕組みです」と語った。

その後会場からの「個性的な本屋は、個性的な本がないと成り立たないのではないか」という質問に対して、イ氏は「本は情報メディアではなく、文化商品として扱われるようになってきています。本が変ったから本屋が変ったのではなく、本屋が変わったために、新しい本が生まれることが起っているのではないか」

キム氏は、「これから本の役割も、書店の役割も変わっていくでしょう。個性のある町の本屋が増えることで、コーヒーやビールを飲みながら読書をしたり、本の話をすることが、文化生活の一つになってきています。本屋は本を探す場所、それ以上に、余暇を過ごすための空間としての役割を持ち始めているのではないか」と話した。

「日本では不況もあり、ミニマリズムがブームになって、物より体験にお金を使う人が増えて来ています。韓国ではどうでしょうか」という質問には、ジョン氏が「私の行っている本処方プログラムは、本が二、三冊買える値段です。書店を始めたときに一番心配したのは、価格のことでした。三ヶ月続けて気づいたのは、人は本と出会う、人と話すという体験にお金を払っているのだと。ソウルの小さい本屋がブームになっているのは、本を楽しむ経験をさせてくれる場所だからだと思います」

キム氏とジョン氏は書店を作る前に、日本の本屋をたくさん巡り刺激を受けたという。ぜひ本書を片手にソウルに来てほしい、と話した。司会の綾女氏は、「この場を未来へとつなげてもらえたら」と語り、盛況のうちにイベントは閉幕した。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年8月11日 新聞掲載(第3202号)
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