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八重山暮らし
2017年8月15日

八重山暮らし➄

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日本最南端の有人島・波照間島。
高那崎にて島嶼に生きるつよさを思う。 (撮影=大森一也)
青の階調の美しさに息を呑む。世に楽園があるのなら、この海辺に違いない。波照間島の海は、独り佇ずむ旅人の想いをわしづかみにする。

日本最南端の島に船を乗り継ぎ、はるばるやって来た。都会に背を向け、ひたすらに南の果てを目指した。これほどの距離を経て、ようやっと気付く。消費欲へのがんじがらめの呪縛から解き放たれたことに。島にあるものだけで簡素に暮らす潔さに眼を見開く。

島の南に位置する浜から東へと向かった。ほどなく断崖絶壁に突き当たる。高那崎からは紺碧の海原が見渡せる。その茫洋たる大海の深い青にしばし見惚れる。島に暮らす友人が釣り道具を担いで傍らに来た。ヤギのような敏捷さで切り立つ崖をすべり降りていく。張り出した岩場に悠然と立ち、夕刻に染まり始めた水平線に向かって、彼は竿を勢いよく振った。

鋼のごとく立ちはだかる崖にぶちあたる波。激しく砕けた飛沫が空中に散る。白く逆巻く波頭のあい間に魚影がちらつく。どれも生唾ものの大物だ。

ひと抱えはあろうナポレオンフィッシュを引っ提げて友人家族の家路を辿る。幼い娘らが魚の分厚い唇を指さす。「そこを煮付けにするとぷりぷりしておいしいのよ」。若い母親は慣れた手つきで獲物をさばく。波照間の夕餉は、島の恵みと華やいだ語らいに美しく彩られていた。

2017年8月11日 新聞掲載(第3202号)
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