一〇一教室 / 似鳥 鶏(河出書房新社)似鳥 鶏著 『一〇一教室』 青山学院大学 山田 力|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年8月16日

似鳥 鶏著 『一〇一教室』
青山学院大学 山田 力

一〇一教室
著 者:似鳥 鶏
出版社:河出書房新社
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一〇一教室(似鳥 鶏)河出書房新社
一〇一教室
似鳥 鶏
河出書房新社
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 教育界にはカリスマ的存在が必ずいる。近年なら東進ハイスクールの林修やオリエンタルラジオの中田敦彦、「尾木ママ」こと尾木直樹などであろう。例えば受験勉強に対するアプローチだとか親と子の距離感だとか、彼らの主義主張は説得力にあふれ、何しろ話が上手い。彼らの顔が表紙を飾ると、その教育本はたちまちベストセラーになるという。しかしその反面、昨今の教育関連のニュース、また「受験戦争」や「教育ママ」といった言葉に、何か宗教じみた印象、底知れぬ「ヤバさ」を感じたことはないだろうか。

この物語にもいわゆる「カリスマ」がいる。高い進学実績を誇る、私立恭心学園高校校長、松田美昭だ。かつて教育評論家として名をはせた経緯を持つ彼の教育理念は「戦前の日本人の心を取り戻すこと」にあった。松田は「どんな問題児でも矯正してみせる」と謳う。しかしその指導の実態は教師による理不尽な体罰が常習化した恐ろしいものだった。学園には生徒のいじめや不審死などの黒い噂が絶えなかったものの、その真相が全寮制の校舎を取り囲む高い塀を越えて世間に知れ渡ることはなかった。さらに、この学園の体罰隠ぺいに拍車をかける存在となるのが、あろうことかカリスマ松田に陶酔しきった保護者たちだ。松田を狂信した彼らが、生徒の痛切な声なき声に気付くことなどなく、学園は絶望的に閉塞された地獄と化す。物語の佳境で徐々に明らかにされていく生徒の不可解な死や体罰の惨状には、息を飲むだろう。

この物語には、随所で松田の対談録が挿入されている。序盤こそまさしく現代の教育事情を憂える内容に納得させられるが、徐々に不快な雰囲気を漂わせ始める。この絶妙に不穏なグラデーションは、事件が収束した後に全貌が明らかになる。教育界の孕む底知れぬ「ヤバさ」を詰め込んだような狂気的なカリスマの言葉に背筋が凍るのを実感してほしい。

こうした教育の暴走は、保護者からの「信仰」といってもいいほどの支持を集める松田のカリスマ性に端を発したが、あながちない話でもないのではないか。作中にも実際に起きた事件と絡めて描かれる場面もあり、教育のもろさを裏側から浮き彫りにしたような作品である。さわやかな青春小説でおなじみの著者に似つかわしくない、渾身のミステリー。手に取ってみる価値はあると断言する。   
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