二丁目の叔父さん / 大谷 峯子(三一書房)やはり先達はすごい  モモエママの人生波瀾万丈っぷりに驚がく|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年8月14日

やはり先達はすごい 
モモエママの人生波瀾万丈っぷりに驚がく

二丁目の叔父さん
著 者:大谷 峯子
出版社:三一書房
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差別や抑圧、これらの言葉が大仰すぎるなら大きな苦労を乗り越えて生きてきた先達の語りはいつも面白くて重要なので、なるべく後世に残したい。そう思って私自身もゲイへのインタビューに基づいて論文を書いてきた。しかし、どう扱ったらよいか悩む語りにときどき出会うのである。例えば語りの中にあらわれる女性への偏見、あるいは「おかま」「ホモ」といった「差別的」な言葉による自称。先達の言葉を金科玉条のように扱う必要はないかもしれないけど、「昔の人は間違っていた」などと敬意のない片づけ方はしたくない。

こんな私の逡巡を、著者の筆はひらりと飛び越える。女性の言葉遣いを直してあげたいとのモモエママの語りに対し、女性が「足手まといな言葉」に繋ぎ止められることをきっぱりと拒絶し「女は女で前に進む」「ゲイの人たちに、女の言葉遣いを直していただきたいなんてさらさら思わない」と書く。叔父の生の声を尊重するために語りそのままの言葉遣いを本文で提示するけれど、「『おかま』という言葉など、わたしがすきではない言葉」と断るのも忘れていない。

でも、その筆使いは少しも冷淡ではない。話が面白くて、苦労人で、そして今を楽しく生きるモモエママのことを本当に好きなんだなあ、と文章のそこかしこから伝わってくる。研究者には真似できない率直な物言いも、叔父と姪の信頼関係ゆえのものだろう。著者の筆致に寄り添うことで、モモエママと、モモエママ以外の性のあり方を生きる人たちを同時に上手に好きになっていける、そんな繊細な文章だと思う。

それにしても、モモエママの人生の波瀾万丈っぷりには驚いてしまう。たしかに、70代のモモエママは私のような30代の人間には想像もできないような苦労をしただろうと読む前から思ってはいた。しかしその想像は甘かった。「人って、知らず知らずのうちに、自分の人生の演出家でもあるんじゃないか」と著者は書くが、だとすればモモエママは天性の名演出家である。

とりわけ評者が驚いたのは異性愛者の男性との「恋愛遍歴」である。実は、最初に好きになった男性は異性愛者、というゲイは少なくない。周囲の男性への片思いという形で自らの性的指向に気づいた後に自分以外のゲイを探すようになることが多いのだから、当然と言えば当然である。だから、異性愛者の男性は、多くのゲイにとって切ない思い出を含んだ「手の届かない」人たちだ。それなのにモモエママはあっさり異性愛者の男性と事に及んでいるではないか。羨むゲイ、多いと思う。コツがあるなら教えてほしいけれども、多分何もかもをぐいっと抱きかかえられるモモエママほどの度量がなければ無理なんだろう。その度量こそが、これほど多くの苦労を乗り越えた原動力なのかもしれない。

とまとめてみたものの、やはりモモエママの人生はこういう結論を拒むスケールを持っている。著者が十年かけて話を聞きたくなるのも当然である。やはり先達はすごい。まったくかなわないのである。
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2017年8月11日 新聞掲載(第3202号)
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二丁目の叔父さん/三一書房
二丁目の叔父さん
著 者:大谷 峯子
出版社:三一書房
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