「永遠の都」は何処に? / 岳 真也(牧野出版)芳醇な文学空間を醸し出す  加賀作品『永遠の都』へのオマージュ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」

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読書人紙面掲載 書評
2017年8月14日

芳醇な文学空間を醸し出す 
加賀作品『永遠の都』へのオマージュ

「永遠の都」は何処に?
著 者:岳 真也、加賀 乙彦
出版社:牧野出版
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加賀乙彦氏と岳真也氏は、文学が輝かしい光芒を放っていた時代にデビューし、いまも旺盛に執筆を続けている。作家の年齢や経歴はそれぞれ違う。この二人が世代を超えて意気投合し、永遠の都は何処にあるのかを語り合う。芳醇な文学空間を醸し出しているのは当然だろう。

『永遠の都』は加賀乙彦氏の代表作である。十二年間「新潮」に連載された大作で、分厚い新潮文庫でも七冊になる。しかし最近は書店の棚に見かけなくなった。岳氏はそれを残念がり、この大作を読んでいない人に知って欲しいと思って対談集を出した。タイトルからも分るように、この対談は『永遠の都』へのオマージュであり、永遠に続くかと思われる大長編の道しるべとなっている。

「今の時代、若い世代に残しておかなければならないのは、戦争の『記録』ではなく『記憶』だ」と岳氏は言う。また「この本には文学、藝術、宗教、歴史、社会問題、すべてを包括しているように思います」とも語る。日本文学が世界文学と質量ともに肩を並べる記念碑的な作品と言える。その後も十二年間にわたって書き継がれた『雲の都』と合わせれば、日露戦争から敗戦を経由し、全共闘時代の若者たち、主人公の悠太が親しい友人たちと軽井沢に芸術家のユートピアを築き上げる晩年まで、百年以上にわたる日本の近代史を、綿密かつ詳細大胆に描ききった人間ドラマである。登場人物は多岐にわたる。作者はそれぞれの人物に憑依したように、その内面までも抉り出す。トルストイ『戦争と平和』のような雄大なスケールで、ドストエフスキー『地下生活者の手記』のような奥深い人間心理を、そしてプルースト『失われた時を求めて』のような手法を併用しながら、二十四年掛けて大長編を編み上げてきた。これはまさに上質な歴史小説である、と後輩たちに評価され、このすぐれた作家に歴史時代作家クラブの特別功労賞を貰っていただいた。

岳氏は関東大震災と東京大空襲のリアルな描写に着目する。「これは単なる記録ではなく、小説家の感性を通して描かれた『記憶』ですからね」と岳氏は言う。この『記録』と『記憶』の相違は重要である。戦争の記録は残るだろう。さらに新しい記録が付け加わるかも知れない。しかし戦争の記憶は、被災者たちが亡くなってしまえば消えてゆく。人生には、あるいは世界平和を願うなら、無機質な記録よりも様々な思いが籠められた記憶の方が大切なのだ。この小説を読めば、主人公たちが遭遇し体験した記憶が、余すところなく描かれている。戦争反対と声を荒げなくとも、登場人物の思いはヒシヒシと伝わってくる。加賀乙彦氏は語る。「これを書いているときには、これからの若い人たちにぜひ読んでほしいな、と思っていました。十年後、二十年後かもしれないけれど、という祈りとともに書いていましたから」。そして「この『永遠の都』という作品自体が、一つの私の遺言なんです。そういう意識がありますね」と言う。

作家はみずからの血を流すことで、優れた作品を書くことができる。いまは歴史時代作家として健筆を振るっている岳真也氏も、私小説的な『水の旅立ち』という優れた作品を書いている。加賀氏も岳氏も人間の痛みに対する感覚が鋭敏なのだ。ためしに『永遠の都』や『水の旅立ち』をぜひ読んでみてください。そこには人間の『記憶』が刻まれているはずです。
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2017年8月11日 新聞掲載(第3202号)
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