雪煙チェイス / 東野 圭吾(実業之日本社)東野圭吾著『雪煙チェイス』  関西大学 山口 和晃|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 書評
  3. 雪煙チェイス / 東野 圭吾(実業之日本社)東野圭吾著『雪煙チェイス』  関西大学 山口 和晃・・・
【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年8月14日

東野圭吾著『雪煙チェイス』 
関西大学 山口 和晃

雪煙チェイス
著 者:東野 圭吾
出版社:実業之日本社
このエントリーをはてなブックマークに追加
著者・東野圭吾が手掛けるスキー場を舞台とした物語の一つ。このほかにも「白銀ジャック」や「疾風ロンド」という作品が発売されており、両作品とも「雪煙チェイス」とつながっているようだ。その中でも、この本を読んだことによって、私の中での固定概念が壊されたように感じた。

私がこの作品を読み始めた時、最初はミステリーものと感じさせるような展開であった。しかし、物語の最後まで読み進めることによって、なぜミステリーではなくサスペンスというジャンルに分類されないのかがよくわかる構成がされていた。その違いを気付かせてくれたのは、真犯人の登場シーンである。真犯人の登場はあくまでも物語の最終部分だけであったうえ、誰が犯人かを推理する材料が全く描かれていなかった。この作品がミステリー小説ではなく、サスペンス小説であるというように再認識させられたのはまさにこの点である。

著者の作品をいくつか読んで一様に感じるのは、物語中の情景を比較的容易に頭に浮かべることができるという点である。言い換えるとすれば、「今、目の前で紡がれている物語」と表すのだろうか。それは恐らく、著者の言葉の選択が洗練されているからではないかと思う。一語一語、語弊を招かないように工夫され、且つ短い文章で簡潔に書かれているため、読みやすいと感じるのだろう。無駄な文章も無ければ、飾り気もないように私は感じるが、だからこそある意味で美しさを醸し出している文章でもあるのだと思う。著者の作品の人気が高い理由のひとつは、この「分かりやすさ」にあるのではないだろうか。

この作品を読んでいて、私の胸がすくように感じたのは、登場人物らの心情の移り変わっていく場面である。上司にこき使われながら、相方と極秘捜査に行かされる警察官の小杉が特に分かりやすい。彼は上司の無茶ブリに文句を垂れつつも捜査を続ける中で、とある人物に捜査を協力してもらうことになる。旅館と居酒屋を経営している女将である。小杉たちが捜査に難航するたびに、彼女は警察とは違った視点から容疑者である主人公・竜実の居場所や行動を推測する。彼女は小杉たち警察とは違い、竜実のことを殺人犯として捜査に協力していたわけではない。あくまで自分たちの故郷の平和を守るために協力していたようだ。終盤では、女将が竜実の身柄を捕えた小杉に対して、真犯人を見つけることの方が、上司の機嫌をとるよりも大切なのではないかと説得する。その過程で、女将は「一寸の虫にも五分の魂」ということわざを使う。このことわざにまつわる話を女将から聞いて決心した小杉は、遂には真犯人にまで竜実と協力して辿り着くのであった。

自分の信じること、正しいと思うことのために、時には周りの反感を買ってでも成し遂げようとする様は、何度見ても私自身に希望を与えてくれる。

この作品は、幾度となく別の作品で見たことのあるような展開が盛り込まれているが、読者を退屈させるようなことがない作品であると思う。私のように著者の各品をあまり読んだことがない人に、特におすすめしたい一冊である。ページをめくる手が止まらないとは、恐らくこんな本のことをいうのだろう。
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年8月11日 新聞掲載(第3202号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
この記事の中でご紹介した本
雪煙チェイス/実業之日本社
雪煙チェイス
著 者:東野 圭吾
出版社:実業之日本社
以下のオンライン書店でご購入できます
文学 > 日本文学 > ミステリーと同じカテゴリの 記事