【横尾 忠則】夜遊びおでんの野良DNA 今夜は愉しい夢でも見よう|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
読書人よ、集まれ!

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは

  1. 読書人トップ
  2. 連載
  3. 日常の向こう側ぼくの内側
  4. 【横尾 忠則】夜遊びおでんの野良DNA 今夜は愉しい夢でも見よう・・・
日常の向こう側ぼくの内側
2017年8月22日

夜遊びおでんの野良DNA 今夜は愉しい夢でも見よう

このエントリーをはてなブックマークに追加
2017.8.7
 空一面が蓋をされたような重苦しい天候だ。

〆切に追われることは滅多にない。〆切前に終らせるからだ。〆切でストレスをかかえるのは最低だ。だけど今、海外の仕事2本かかえている。時間というより空間がぼくの仕事を遅らせている。2本の内のひとつ、ロマン・コッポラの仕事をやっとこさ終って、ネットで送る。相手は映画なので一発でOKになるかどうかはわからない。
おでん(撮影・筆者)

2017.8.8
 そーいえば長い間夢を見ていない。そのことと睡眠ができていることと関係あるのかな? すると、夢は眠りが浅い時に見ることになる。睡眠がとれているのは嬉しいが、夢がないのはユメのない話だ。

夕方まで朝日新聞の書評を3本入稿する。こんなことは一度もしたことがない。

髪が伸びたので夏向きに短くする。

最近おでんは一日中不在が多い。夜になるとブラッと帰ってくるけれど一体どこへ行っているのだろう。

2017.8.9
 最近は複数の用件が同時進行していて頭がコンフューズしそう。頭の整理はまず環境の整理から始めなきゃ。禅寺に参禅していた時、座禅以外の時間は作務が中心で、掃除ばかりさせられていた。掃除をすることで心を安定させ、清めるのが目的だという。禅は頭から入るのではなく肉体からだ。

イッセイ・ミヤケの来春夏のパリコレのインビテーションカードの打合せを若いデザイナー宮前さんと。今回のテーマはアイスランドの荒涼たる大地だそーだ。その感じをファッションで表現している。

2017.8.10
 昼食はほとんど外食だ。それも行く店は決まっている。まあ、メニューを順番に頼めばそうあちこち行く必要はない。成城は著名人が多いので、店が社交の場になることもある。今日も中華料理店から出たところ、入れ違いで戸田菜穂さんとばったり。何度会ってもぼくは人の顔を覚えないので、「エエーット?」なんていっちゃう。

アトリエに戻ったあと久し振りで野川のビジターセンターのテラスで一服。やっぱりまだ暑い。

22年前に出た『フェリーニ』を読みながら眠る。フェリーニの映画は夢が原点。今夜は愉しい夢でも見ますように。

2017.8.11
 高校時代の絵の仲間から今日まで出会った美術関係者総出演の夢を見る。まるでフェリーニの映画の一場面だ。ブラックタイの人達が集まっているパーティ会場だ。あんまり人が多いので仲間とはぐれないようにしなきゃと思って、一ヶ所を動かない。そこへデヴィッド・ボウイがあの悪魔的な微笑を浮かべながらやってくる。

早朝、夜遊びから帰ってきたおでんがぼくの布団の上で放尿。突然の災難にパニック状態。臭いを逃れてアトリエへ逃走。

失敗しかけている絵をなんとかねじ伏せて仕上げに入る。

2017.8.12
 またおでんがおしっこをしたらと恐れて表へ連れ出す。庭でおしっこをした足で走るように車の往来の多い公道に出て姿を消してしまった。まさかおでんが公道に出るとは思っていなかっただけに驚く。あとを自転車で追うが姿はない。このところ、一日中不在の原因がつかめたような気がする。わが家のテリトリーの外部へ出掛けているらしい。おでんが家のアプローチから公道に出ていく後姿を見ながら、おでんはとうとうわが家を見捨てようとしているように思えた。彼女の両親は元々野良だ。そのDNAを持ったおでんが自由の天地を野良に求めようとしているのかも知れない。彼女の母猫はまだ事務所周辺を徘徊している。そんな母猫がおでんを呼び寄せようとしているのか、はたまたおでんが母猫を恋こがれ始めたか。なんとなくおでんはわが家との縁を切る時期にきているのかも。猫の心は深淵過ぎて人間にはわかりまへん。

夕方、事務所のおでんの姉妹、パソコとツートンに会いに行って、おでんの行状をなじる。

夜11時間振りにおでん帰宅。もうこっちも相手にしない。

2017.8.13
 深夜に再び、おでん消える。

三連休の最終日。

日曜は山田さんと暗黙の昼食。話題はいつも映画。「七人の侍」に宮口精二を起用した黒澤さんの感性というか美意識に想像を超えた狂気を感じた。フェリーニも予想を裏切るような役を与えて平凡な俳優を非凡な俳優にメタモルフォーゼしてしまう。

日野原重明医師の本2冊買う。観念的な話はひとつもない、全て肉体を通した哲学の書である。

外出して20時間経つが、おでん帰らず。(よこお・ただのり=美術家)

2017年8月18日 新聞掲載(第3203号)
このエントリーをはてなブックマークに追加
横尾 忠則 氏の関連記事
日常の向こう側ぼくの内側のその他の記事
日常の向こう側ぼくの内側をもっと見る >
芸術・娯楽 > 美術 > 現代美術関連記事
現代美術の関連記事をもっと見る >