死者の奢り・飼育 書評|大江 健三郎(新潮社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
2017年8月21日

生々しい戦争の恐怖
第39回芥川賞受賞大江健三郎著「飼育」(1958年)

死者の奢り・飼育
著 者:大江 健三郎
出版社:新潮社
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昭和33年1月号『文學界』に発表された第39回芥川賞受賞作品。60年ほど前の作品で、人の横顔を描いた淡く赤茶けた色づかいの水彩画を表紙にした新潮文庫版(『死者の奢り・飼育』)は、いかにも昔の名作という印象を受けた。大江健三郎について調べてみると、日本ではまだ川端康成と二人しかいないノーベル賞表受賞作家であることを初めて知った。

戦時のある日、小さい村に戦闘機が墜落する。そこで生き残った一人の黒人兵は主人公である少年の家で家畜の牛のように地下倉で暮らすことになる。黒人兵と少年は、水浴を共にしたり食事を与える日々を過ごしていが、いつの間にか大人たちによって、突然黒人兵は少年の敵となり、悲劇が始まってしまう。

短編小説なのだが、読むのに少し時間がかかった。話す場面が少なく漢字も多い。その分描写が繊細で美しく、生々しい恐怖を感じる。大江健三郎の描写には、圧倒されて、何度も読むことができ、読んでいるうちにどんどんこの作品に引き込まれていった。

この話には、大人と子供、味方と敵、喜びと憎しみ、生と死、家族と友達、信頼と裏切り…人間の心模様がたくさん書かれている。

印象的だったのは、黒人兵のことを「獲物」と表現していて、戦争の差別、悲しさ、怖さを感じた。

大江健三郎が小学生の頃に始まった太平洋戦争。作者自身の体験もあるからこその当時の風景がある。

「血まみれの戦、月夜の小鳥狩り、橇あそび、山犬の子、それらは全て子供のためのものなのだ」

この頃の子供たちの遊びは橇あそびや小鳥狩りなど。今ではかんがえられない遊びで驚いた。私の思っている男子の遊びというと、近くのショッピングセンターで映画を観たり、ゲーセンに行ったり、カラオケ、原宿へ行ったり。学校でも昼休みは校庭には行かず、廊下で他クラスの友達と話したり、ふざけあっていて橇あそびや小鳥狩りとはかけ離れている。戦時の日常が何だか殺風景で寂しく思えた。その光景は、70代の祖母から聞く印象と似ていた。防空壕に急いで入った話、空から爆弾が落ちてきた話、毎日の食べ物が粗末だった話……当時2歳くらいの記憶を70年も鮮明に残っているほど戦争は悲しく、あってはならないものだととても思った。

戦争の悲しさ、怖さ、寂しさ。祖母の話や、アニメ・ドラマなどで感じられる戦時の日常生活の印象がこの作品でとても感じられる実存主義の大江健三郎らしい戦争小説。今年、72回目の終戦記念日を迎えた。戦争の日常を感じられるこの作品は、同世代にぜひ読んでほしい。

■渡辺小春インタビューはこちら
この記事の中でご紹介した本
死者の奢り・飼育/新潮社
死者の奢り・飼育
著 者:大江 健三郎
出版社:新潮社
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年8月18日 新聞掲載(第3203号)
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