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八重山暮らし
2017年8月22日

八重山暮らし⑥

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旧盆の先祖供養・アンガマ。踊るウシュマイとンミ。
石垣島登野城にて。(撮影=大森一也)
少年の真一文字に結ばれた唇が震えている。幼い瞳が赤く潤む。それでも、わななく身体は、グショー(後生)からの精霊にしかと向き合う。ウシュマイ(翁)とンミ(媼)は、方言と裏声を駆使して容赦なく言葉を放つ。日頃の悪たれぶりを見透かされ、少年はただ頷くばかりだ。

旧盆の日、あの世から訪れたアンガマと呼ばれる一行が、暮れなずむ集落を練り歩く。請われた家の座敷に上がり、祖霊を供養するために三線(さんしん)を奏で歌い、舞う。もてなしの酒をあおりつつ、やおらクバ(ビロウ)の葉の扇を振り上げ、時に弾けんばかり、すし詰めの座を巡る。家人は手を叩き、腹をよじって笑い合う。何よりウシュマイらの当意即妙の問答は、せちがらい時代を射貫き胸がすく。

開け放した窓の外から、たくさんの小さな瞳が覗いている。宴を終えたアンガマ一行は、次の家を目指し、腰を上げる。水を浴びたかのように汗で濡れた着物姿を満月が照らす。子どもらが連れだって行列を追いかけていく。この世とあの世を往き来する調べが、夜のしじまにゆらゆらと吸いこまれていった。

祖先との断ち切ることのできぬ絆が羨ましいほどにあっけらかんと受け継がれていく。少年に流れる血潮、そのはじまりへと思いを馳せる。浅黒い木彫りの面には、島に根ざした心ばえが滲み出ている気がした。
2017年8月18日 新聞掲載(第3203号)
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