絶滅の地球誌 / 澤野 雅樹(講談社)澤野 雅樹著『絶滅の地球誌』 明治学院大学 河村 理怜|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年8月21日

澤野 雅樹著『絶滅の地球誌』
明治学院大学 河村 理怜

絶滅の地球誌
出版社:講談社
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絶滅の地球誌(澤野 雅樹)講談社
絶滅の地球誌
澤野 雅樹
講談社
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我々はいまや、利益を奪い合う泥沼にはまっている。自由市場主義の名のもとに、弱者からの際限ない搾取が罷り通る。ルールに則っているからこそ、罪悪感が生まれる由もない。社会福祉を学ぶ身としては、貧困や過労死の問題に接した時、自由市場主義の絡繰りから目を背けることは難しい。だからといって、何かを変えたいと思ったところで、それに抗うこともできない。私も一人の無力な人間であることを実感する。しかし、そんな悲哀などちっぽけに思えるくらいに、現実はもっと深刻である。自由市場主義のなれの果てにあるもの、それは人類を含めた生命の大絶滅である。我々の自己中心的な思考がもたらす帰結とは何か。本書は、単なる「絶滅」の解説書ではない。ひとつひとつのトピックを点で結ぶことで、人類の運命を描くスケッチであり、未来に向けた提言の書である。

本書は、著者の専門領域でもある社会思想や犯罪社会学を軸にしているものの、生物学、化学、地質学、物理学……私にとっては難解な話を次々と展開する。その手強さゆえに、何度ページを行き来したことか。しかし、そのようにして得た知識は、確かに点線によってつながれていく。ウランの発見、原子核分裂の操作、核爆弾の開発、核の恐怖、そして核の「平和利用」に行きつく。核爆弾と原子力発電の強い相関性を理解すれば、「平和利用」と謳われた原発は、その技術力を以て核爆弾の開発を可能にすることに気付かされる。恐ろしいのは、自由市場が、核のビジネスとして原発を包括することで、先進国による意図せぬ核爆弾の拡散がなされることである。そこには、核不拡散条約の矛盾があり、歯止めの利かない利益の追求は、皮肉にも小国が核を以て大国との交渉権を得ようとする、その抜け道を切り開いてしまう。

泥沼に陥った自由市場主義は、交渉の手段としての核爆弾に加え、競争の敗者としてのテロリストを産み落とす。核のビジネスの広まりは、より個人レベルでの核保有を可能しにし、つまりそれは、死を恐れないテロリストが、相互確証破壊の原理を破綻させる可能性を意味する。いよいよ最悪のシナリオへの歩みを加速する。

安全への不安や危機を煽られ、あらゆる「自由」を権力に預け、思考を止めてしまう者たちも、同様に敗者であるという。権力による「右向け右」に愚直に従うことで、安全が守られると錯覚し、その先にあるものの議論なしに、「忖度」して突き進む。異なる方向を向くものは、その正当性は抜きに、変り者とされ、排除される。やせ細った多様性はやがて、批判と無関心の矛先を声なき障がい者やマイノリティーに向けるかもしれない。障がい者やユダヤ人の虐殺を行った、ナチス・ドイツを想起させる。

著者は、意外にも淡白な提言をする。泥沼を脱するためには、「未来の視点」を持つこと、というのだ。それは一見単純なようで、あまりにも難しい。提言であると同時に、新たな問題提起であり、著者からの、人類に対する宿題でもあるのだ。
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2017年8月18日 新聞掲載(第3203号)
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