【横尾 忠則】猫の神秘を評価しているが彼女の行動は不可解過ぎる。|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの向こう側
2017年9月5日

猫の神秘を評価しているが彼女の行動は不可解過ぎる。

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平野啓一郎さんと(撮影・徳永明美)

2017.8.21
 一年振りだよね、平野啓一郎さんが来るのは、アトリエへ。会った10年前とほとんど同じだね。ヘアースタイルも変らんし、相変らず黒づくめでとんがった黒い革靴。「ここはボーッとできるからいいですね」。森林浴ができるでしょ。「いくつになったの? 43歳か」。ぼくが画家転向したのが45歳。三島さんが自決したのも45歳。あと2年だね。「ぼくは横尾さんみたいに受身でいるのは無理だなあ」。そーだね、運命を開拓していくタイプかもね。43歳の平野さんを見ていると、こんなに若い時期にぼくは転職しちゃったんだと、ウーン、感慨ひとしおだね。

2017.8.22
 「何が食べたいですか」と糸井重里さん。やっぱり老年はステーキだね。和風の鉄板ステーキ。そんなわけで昼間から六本木のステーキハウスへ。ご馳走になっちゃったんですよ、妻と。糸井さんの食べ物には美意識があって、今まで色んなものを送ってくれた。中でも手造りのあんこ、これは天下一品。誉めるとどんどん美味くなる。
 食べ過ぎてマッサージへ。山田さんと鉢合わせ。山田さんは大ヒット中だという『君の膵臓をたべたい』、「キミスイ」と呼ぶらしい映画を観たと。「どーでした?」。2/3で出て来た、というのが山田評である。『銀魂』なんて映画も大ヒットで、原作のマンガは五千万部だって。ぼくの知らない日本の現状だ。
4森進一さんと(撮影・徳永明美)

2017.8.23
 この間から胸焼けが激しい。どうも夕食後、寝る前に食べる果物のせいでは? と思って中止するとピタリ止んだ。だけど虎の門病院の石綿先生に予約して無理に時間をとってもらった。一度、胃の内視鏡をと思ったけれど、撮るかどうかは診察の結果決めましょうと実に良心的だ。診察室の入口で「森です」という人から声を掛けられたが、「森さん?」思い出せない。「森です、もりです」と言われてぼくの頭の中は「森」巡りをするが知人に心当りはない。「モリシンイチ!です」と言われて初めてあゝ、森進一さんだとわかる。イヤー、昔、森さんが眼を悪くされた時、知り合いの治療師を紹介して森さんの家に伺ったことがあったんですよね。

2017.8.24
 昨日出たままおでん一晩帰らず。ただ部屋の様子が変っている。もしや帰宅して再び早朝に出掛けた可能性はある。
 よく台所に来て、妻から特別料理をもらっていたホームレスがこのところ皆目姿を現わさない。この前、勝手口でぐったりしていたので、あれが見納めのような気がしたと妻は言う。
 ソフトバンク・クリエイティブから出版する「創造&老年」の最終回に一柳慧さんと対談をするつもりで六本木に出掛けるが、理由はわからないがひどい難聴に襲われ、会話が不能になってしまう。ビルの個室のせいかも知れない。結局質問要項に答えてもらうことにして対談は中止。一柳さんには大変申し訳ないことをしました。
 おでん24時間後に帰宅。

2017.8.25
 おでん朝9時頃外出。猫の神秘を評価して猫を飼っているが、彼女の行動は不可解過ぎる。わが家を一体どこだと思っているのだ。おでんを心配するエネルギーがストレスになる。じゃ、こちらから縁を切ってやろうじゃないか。人は情に流される性質を有し、所有物に執着し過ぎる。その心を諭してやるためにアタシは出たくもない深夜を徘徊しているのよ、そんなことわかっちょるか? と言わんばかりだ。
 とぼやいていると、夜、ひょっこり帰ってくる。

2017.8.26
 汚ねえおでんじゃ。夜中にゲロンパして、腹がへったもんだから自分の汚物を食うバカ。それでも妻は頭の天辺から声を出して、「おでんちゃま、帰ってきたの、エラかったわねえ」と満面破顔。
 玄関に出していた野良用のエサは失くなっていた。そのそばに蝉がひっくり返っていた。拾った途端飛び立った。なんだ、まだ生きていたんだ。まあここまではよかった。メダカの甕を見ると泥水に変って20匹いたメダカ半分になっている。どうやら猫の仕業らしい。わが家は大小の生物に好きなようにかきまわされている。

2017.8.27
 昨夜9時頃おでんが帰宅。することもなく実に退屈そーに横になったり座ったりしている。もしぼくが猫だったら退屈さに耐えられなくなって、どこかへ行きたくなるに違いない。だんだん、おでんの行動が理解できるようになってきた。
 毎日、日野原重明先生の本を読んでいる。先生の生き方はそのまま芸術行為に通じ、十分真似るに価する。100歳になっても新しいことに常に挑戦する精神が結局105歳まで延命されたのだろう。もう81歳か、と思うのではなく、まだ81歳かという気持が好奇心を生み、新しいことに挑戦する意欲が湧くとおっしゃる。
2017年9月1日 新聞掲載(第3205号)
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