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八重山暮らし
2017年9月5日

八重山暮らし⑧

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八重山では、全天に88ある星座のうち
84個の星座が見られる。(撮影=大森一也)


星と海と…


あれはまだ十に満たない子どもの頃、谷川岳の山小屋で満天の星と出合う。父の袖を握り、夜空を埋めつくすあまたの星を飽かず眺めた。時を経て、同じ夏の季節。南の島の空を仰ぎ、言葉を失う。

天に近い山で見る無数の星の美しさは、幼心にも至極当然に思えた。だから、西表島の海のそばの家から夜空にかかる天の川を見た瞬間、呆気に取られ身じろぎもできなかった。八重山は大気の揺らぎが少なく安定しているため、日本のなかでも、とりわけ多く星が見えるのだという。
「夜の海にいても、たとえ霧に四方を阻まれても、先人は決して、うろたえなかったさぁ」

かつて帆舟を自在に操った老齢の漁師は、少年の時をしきりになつかしむ。

ニーヌファブシ(北極星)を中心にした星の動き、島々の緩やかな起伏や突き出した岬が織りなす影。彼の父や祖父は、ささやかな道しるべを読み取り、夜の航海にあっても進路を誤ることはなかった。目を閉じていてさへ、海の気配によって舟がどこに位置するのかが、わかっていた。

星も海も自身の五感も根っこをひとつとし、すべてはつながっていた。海の民に宿る計り知れない感性。それはもう、戻らぬものなのか…。

神話の時を手放した哀しみをたたえつつ、星たちは、今宵も天上にきらめく。

2017年9月1日 新聞掲載(第3205号)
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