二十一世紀の英語文学 二十世紀英文学研究 11 / (金星堂)グローバルな英語文学の現在と二〇世紀クリエイティヴ・ライティングの制度|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年9月4日

グローバルな英語文学の現在と二〇世紀クリエイティヴ・ライティングの制度

二十一世紀の英語文学 二十世紀英文学研究 11
編 集:二十世紀英文学研究会
出版社:金星堂
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「アカデミックな文学論に従事している文学研究家に比べ、批評と創作、理論と実践の相互関係、相互浸透の必要性をよく理解できるという点で、どの時代にも不可欠」な小説研究者の具体例としてマルカム・ブラッドベリ、デイヴィッド・ロッジ、アントニー・バージェスのような「作家兼批評家」の名前を列挙しながら、本論集の「序論」は「二十一世紀の英語文学の行方」を概観する。一応のところ、英語文学の現在は、女性作家の進出と民族的多様性、あるいは、(前者のフェミニズムの政治的・文学的潮流にも呼応して生み出された)ポストモダニズムと(地球規模で進行する人種的・民族的混交・融合に影響された)ポストコロニアリズムの潮流が止むことなく進行を続ける状況によって、そしてまた、情報社会のグローバルな拡大による文学の変容や英訳による世界文学の台頭にみられるような、これまであったさまざまな境界線が消えてなくなる状況によって概括される。だが、本論集全体とりわけ「序論」を読む経験において、注目すべきなのは、以下のような指摘だ。そうしたグローバル化する文学状況を生み出したのが、英国の小説家・批評家ピーター・アクロイドが論じるような「相対立する思想や価値観…の共存を認める英国の妥協的な精神風土から発生する」「英国小説に特徴的な人間主義的な関心」だったこと、とりわけ、米国やヨーロッパのポストモダニズムに対応した英国キャンパス・ノベルを書いたロッジの小説論では、モダニズムの方法である隠喩とリアリズムの方法である換喩の二つが時代区分を画定してしまう対立的なものではなく作家の創作方法において同時に共存していること。

このように概観したうえで、本論集は、「いつの間にか不思議な魅力を持つようになった」「現代小説固有の特徴」、つまり、二十一世紀の英語文学の意味と価値を、「現実」と「虚構」の不可分な有機的関係として、解釈する。換言すれば、「小説の役割はあくまでも現実の虚構化であり、現実そのものを描くことではない。しかし、作家である他者が作り上げたその虚構性をとおして、何か現実的なものを、過去においても現在においても、さらには未来においても、読者に提示してくれる」。具体的には、虚構化される現実を過去にもとめた例として、エリナー・キャトンやリチャード・フラナガンの歴史小説、そして、日系移民や植民地モロッコの歴史の問題性を表象したルース・オゼキおよびポール・ボウルズが英語に翻訳したモハメド・ショークリを取り上げたのが第一部の諸論考である。続く第二部は、二十一世紀の現在を、過去の小説や文学伝統の再虚構化という枠組みで、読者に提示した諸作品として、キャリル・フィリップス(『嵐が丘』のヒースクリフ)、ジュリアン・バーンズ(コナン・ドイル)、A・N・ウィルソン(イーヴリン・ウォーの父子のテーマ)、ジュディス・キッチン(『ユリシーズ』のモリー)が解釈され、最後の第三部では、民族間の対立を孕んだ共同体や老年と死つまり高齢化といった、未来においてますます深刻化することが懸念される諸問題を、個人というよりは集団の記憶/忘却の表象を通じて描いたカズオ・イシグロの新作とミュリエル・スパークの旧作が論じられる。ひょっとしたら、二十一世紀の現代に更新された「作家兼批評家」たちがクリエィティヴに生み出す小説によって、あまりに高度化・専門化した文学研究の問題すなわち「専門家と一般読者との乖離」が解消され、さらにはまた、「グローバルな資本主義とイスラム原理主義の二極対立」とよばれるものが柔軟に理解され解決につながるのかもしれない。

ところで、『二十一世紀の英語文学』には論集本体の末尾に「作家・作品紹介」が補足・付加されている。興味深いことに、カナダ生まれでニュージーランド作家エリナー・キャトンは、ウェリントンのヴィクトリア大学近代文学大学院の創作学科で修士号を得ており、米国アイオワ州立大学で創作すなわちクリエィティヴ・ライティングを教えている、と記載されている。二〇世紀クリエィティヴ・ライティングの制度、なかでも、米国のアイオワ州立大学については、すでにMarkMcGurlやEricBennettが戦後冷戦期という歴史的コンテクストにおいて有益な情報とともに鋭利な議論を展開しており、近年大きな話題となっているのは周知のことだ。また、カズオ・イシグロが英国イースト・アングリア大学でクリエィティヴ・ライティングを学んだ作家であり、アンジェラ・カーターやマルカム・ブラッドベリに師事したこともよく知られた事実であるが、英国における、そしてまた、大西洋を跨ぎグローバルに転回したクリエィティヴ・ライティングの制度化の過程とその現在にもつながる歴史的意味についても、今後ますます研究されるはずである。そういえば、本論集の「序論」が第二次大戦以後の英米小説の動向を概観するときに言及していた五冊の「引用参考文献」がブラッドベリのものだった。グローバルな二十一世紀の英語文学は、実のところ、二〇世紀クリエィティヴ・ライティングの制度によって生み出されたものだったのか。

二〇世紀の歴史を、アメリカを中心とする米ソ冷戦やアメリカ文学の旧来の解釈を越えて拡張・拡大するような、トランスアトランティックあるいはグローバルな地政学において捉え直す可能性を、実は、われわれ読者に、提示している点にこそ、本論集のけして小さくはない意味があるのではないか。言い換えれば、それは、狭義の冷戦が終わったいまもなおかたちを変えてますますグローバルに進展しつつある帝国主義によって、二十一世紀の英語文学の現在を解釈し直す作業への魅力的な誘いとして本論集を読むことだ。各章では必ずしもいまだ十全に主題化され批判的な議論の俎上に上っているわけではない、このような可能性こそ、われわれ読者のひとりひとりが、受け取ることを要請されているのかもしれない。

この記事の中でご紹介した本
二十一世紀の英語文学 二十世紀英文学研究 11/金星堂
二十一世紀の英語文学 二十世紀英文学研究 11
編 集:二十世紀英文学研究会
出版社:金星堂
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年9月1日 新聞掲載(第3205号)
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