韓国研究の魁 崔書勉 日韓関係史を生きた男 / 橋本 明(未知谷)人物伝を書くことの難しさと可能性と|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年9月4日

人物伝を書くことの難しさと可能性と

韓国研究の魁 崔書勉 日韓関係史を生きた男
著 者:橋本 明
出版社:未知谷
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人物伝を書くことは難しい。

叙述の対象が存命なら批判的な内容を書くことははばかられるし、死後であるとしても関係者が健在なら、やはり客観的な像を描くことが遠慮されかねない。

こうした人物伝の執筆にまつわる困難は、橋本明の『韓国研究の魁 崔書勉』を読む際に不可欠な視点だ。

本書が描く崔書勉(一九二六~)は、安重根を中心とする朝鮮と韓国の歴史の研究を深化させるために邁進し、不撓不屈の精神で祖国韓国の発展を熱望し、日韓両国の友好親善の確立を期す、知情意の三つを兼ね備えた、いわば現代の傑物である。

さらに、李承晩と対立していた張勉の秘書を務めていたことから、一九五七年に米軍の軍用機で東京を経由してバチカンに逃れようとした崔が、最高裁長官の田中耕太郎の説得によって日本に留まることを決意して法務省から特別滞在許可を与えられ、韓国研究院や国際関係共同研究所を設立するに至るという逸話は、以後六〇年にわたって日韓両国の民間交流の懸け橋となった崔の出発点となる出来事であり、本書の最大の読みどころだ。

だが、千古の美談ともいうべき崔と田中のやり取りと崔のその後の歩みが著者の描くような美しい物語でなかったことは、一九七八年三月に開かれた参議院内閣委員会での質疑からも明らかだ。すなわち、席上、社会党の野田哲が崔の在留資格の正当性や、一九六七年八月一日に崔が韓国当局に外為法違反で検挙されたいわゆる金浦空港事件の経緯、あるいは韓国研究院の資金の流れなどを挙げ、崔がKCIAの諜報員ではないかと質問しているのだ。

確かに、橋本は、本書の中で、崔の下で国際関係共同研究所所長を務めた元駐韓大使・金山政英の言葉を借りる形で崔が韓国政府と関係を持っているという噂を否定する。だが、そうした噂が根拠のない流言ではなく、国会でも取り上げられたということを考えるなら、関係者の言葉で疑惑を払拭することは決して容易ではないだろう。

また、崔の重要な功績の韓国研究の促進も、安重根に関する研究以外は具体的な説明に乏しいため、われわれは橋本の記述を相対化できないもどかしさを覚えざるを得ない。

何より、崔書勉という素材の興味深さにだけ頼らず、著者自身の味付けに工夫がほしい。例えば、崔がロバート・ケネディ、フィデル・カストロ、そして様々な場面で崔自身と関わる金鍾泌と同じ一九二六年の生まれという点に注目するだけで、本書の奥行きは広がるのだ。

それでも、知る人ぞ知る崔書勉の人となりや業績を一般書の形で世に問うたことは本書の大きな功績だ。そして、『韓国研究の魁 崔書勉』を契機として、崔書勉に関するより体系的で立体的な研究がなされるなら、本書の意義は決して小さくないのである。
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2017年9月1日 新聞掲載(第3205号)
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