精神の革命 急進的啓蒙と近代民主主義の知的起源 / ジョナサン・イスラエル(みすず書房)急進的啓蒙、あるいは近代の未完の闘争のプロジェクト|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
2017年9月4日

急進的啓蒙、あるいは近代の未完の闘争のプロジェクト

精神の革命 急進的啓蒙と近代民主主義の知的起源
著 者:ジョナサン・イスラエル
出版社:みすず書房
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この30年ほどの間に、フランス革命は「革命」だったのかどうかさえ定かではなくなった。歴史研究の「進展」によって、「革命」の輪郭は失われてしまった。そこに、J・イスラエルの衝撃的作品『急進的(ラディカルな)啓蒙』(2001年、本邦未訳)は登場した。以来、彼は、これまでの米仏革命の研究書を悉くなで斬りにし、鮮明な切断線を引き、何が「革命」だったのか、誰と誰が敵なのか、友なのか、雄弁に語り続けている。歴史に「顔」を与え返したともいえるイスラエルの膨大な仕事は、近代思想史において、スピノザ主義すなわち普遍的平等原理を認めるのか否か、という対立軸を鋭く浮かび上がらせる。主張の激しさは多数の批判を引き寄せた。スピノザはスピノザ主義者だったのか? スピノザ(思想)だけが基準か? 個別の事象で論証が粗雑すぎないか? こういった疑問ないし非難に、イスラエルは強力に反撃し、分厚い本を次々と書いた。いまや、「急進的(ラディカルな)啓蒙」は近代思想史の大きなテーマとなっている。この論争は、論争それ自体を糧として成長したのだ。書誌・索引・解説の行き届いた本訳書は、「急進的啓蒙」への格好の入門書といえよう。

では、「精神の革命」とは何か? 社会構造の変化が革命を説明するのではなく、まず思想革命こそが先行する。いわば、革命は前のめりに、頭から、精神から始まる。スピノザで炸裂した哲学の革命のおかげで、それまで人間が平等だなどと夢にも思わなかった人類が、ある時期から、とくに1770年前後に確実に、植民地の人も、奴隷も、女性も、誰もが平等だと初めて確信したのである。その時に、あらゆる価値の転倒が始まった。それが「精神の革命」だ。

本書は、「精神の革命」の概観(第1章)、政治(第2章)、経済(第3章)、国際・戦争・革命(第4章)、倫理(第5章)、哲学(第6章)と展開し、ほぼ政治社会の全領域をカバーする。ルソー、スコットランド啓蒙、ヴォルテールが、それぞれ急進的啓蒙の視点から徹底的に批判される。啓蒙という一つの統一された思潮があったのではない。存在したのは、急進派と穏健派の容赦ない闘争だったと繰り返し説かれている。啓蒙とは、一つの開かれた闘争のプロジェクトなのである。 

そこでは、誰と誰が敵なのか。中心軸は、ディドロとドルバック陣営で、この陣営がスピノザ主義を「急進的啓蒙」として完成させた。保守反動は当然主要な敵だが、「穏健な啓蒙」陣営を形成した啓蒙主義多数派も、ディドロ陣営の敵だった。党派活動になじめない孤独なルソーは、ナショナリズムの基礎として一般意志と祖国愛を説いた。同様に、市場経済を唱えるチュルゴら啓蒙的経済学者たちも、結局は王侯に代わる資産家階級と圧倒的な経済格差を、市場の名の下に正統化する。これら全てに抗して、急進的啓蒙は、暴力革命も肯定しつつ、普遍的で超国家超人種的な平等を主張してやまない。「根源的な確信にあえて異を唱える」(プリーストリ)急進的啓蒙の精髄だろう。

まだ語るべきことは多い。例えば、第二章の政治論は、論旨やや粗いものの、現代との接点を示す。カントは民主主義を嫌い、執行行政権から分離した純立法議会(カント的共和主義)を構想し、これは現代の政治制度に多かれ少なかれ継承された。急進的啓蒙は、これに対し、代議制民主主義を深化実質化することこそ啓蒙の本義だと主張する。この問題は、今なお未解決である。もし、「ポピュリズム」や無党派層といった現代の政治現象が、執行権なき議会というカント的近代政治制度への憤懣の現れだとしたら、それは左右いずれかの「独裁」を求めるのか、どうか。急進的啓蒙による「精神の革命」の地平と比較することで、そこに鮮やかに浮かび上がる現代の課題は多い。本書を読むべき重要な理由である。(森村敏己訳)

この記事の中でご紹介した本
精神の革命    急進的啓蒙と近代民主主義の知的起源/みすず書房
精神の革命 急進的啓蒙と近代民主主義の知的起源
著 者:ジョナサン・イスラエル
出版社:みすず書房
以下のオンライン書店でご購入できます
2017年9月1日 新聞掲載(第3205号)
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