密室ゲーム王手飛車取り / 歌野晶午(講談社)歌野晶午著『密室ゲーム王手飛車取り』 青山学院大学 諸喜田愛理|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
2017年9月8日

歌野晶午著『密室ゲーム王手飛車取り』
青山学院大学 諸喜田愛理

密室ゲーム王手飛車取り
著 者:歌野晶午
出版社:講談社
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 気持ちが悪い。それが読み終えてすぐの感想だった。

本作は新本格作家として名高い歌野晶午の描く傑作ミステリだ。新本格ミステリにおいては、かねてより「人間を描く」ということが批判の対象にされてきた。論理を重要視する新本格において、登場人物たちはどうしてもロジックを構成するための駒になりやすい。犯行の動機、トリックを仕掛ける意味、推理の蓋然性、それらをなるべく自然なものにするため、これまで様々な試みがなされてきた。そんな中、本作が選んだ試みは「殺人推理ゲーム」という、いっそ力業とも言える潔いものだ。

本作での主な登場人物は“頭狂人とうきょうじん”“044APD”“aXe(アクス)”“ザンギャ君”“伴道全ばんどうぜん教授”と名乗る五人。彼らは互いの素性を知らないチャット仲間であり、ネット上で殺人推理ゲームの出題をし合う。ただし、ここで語られる殺人は全て、出題者の手で実行済みの現実に起きた殺人なのである。彼らは面白い問題を出題するため、推理ゲームを楽しむために人を殺す。出題者自らヒントを出し、答え合わせをする。この設定だけを聞くと、「ただ面白い問題を出したい」という衝動で人を殺す登場人物たちに不快感を覚えるかもしれない。しかし本作を読み進めている間、何故だかそういった印象は殆ど抱かない。それは、彼らから顔と名前が奪い去られているからのように思う。

彼らに与えられているのは、ネット上のハンドルネームと、ディスプレイ越しのカツラやお面といった小道具、ハンドルネームに相応しい大袈裟な言葉遣い等、「キャラ付け」と呼ばれるような記号化した特徴ばかりだ。だから読者にとって彼らは人間ではなく、出題する「キャラクター」にしかすぎない。文章もチャットログのような形式で、殆どゲームブックを読むのに近い感覚だ。はじめに「殺人推理ゲーム」という設定が示されるからこそ、読者は安心してこの「キャラクターたちの物語」を楽しむことができる。

ところが、本作はそれでは終わらない。これまで「キャラクター」に過ぎなかった登場人物たちの顔と名前が、終盤、突然明らかにされるのだ。素性の知れない者同士だったのが、”ある事件”をきっかけに直接会い、顔を見合わせ、職業の紹介までし始める。そして”ある事件”について思い悩み、取り乱し、最後には彼ら自身が混乱の中に立たされたまま、本作はあっけなく幕を下ろす。彼らにも読者にも、これまでの推理ゲームのように答えが与えられることはない。
だからこそ気持ちが悪い。読者には、「キャラクターたちによる殺人推理ゲーム」の読後には相応しくない、漠然とした不安と焦燥、消化しきれない思いが残されるばかりだ。そしてそれ故に、読者は彼らと彼らが起こした事件についてずっと考え続けることになる。これまで「キャラクター」だと思っていたものが本当はどんな人間だったのか、知らなくてはならなくなる。「殺人推理ゲーム」として「人間」を排除した本作は、ある面で最も「人間」について考えさせる作品かもしれない。

この記事の中でご紹介した本
密室ゲーム王手飛車取り/講談社
密室ゲーム王手飛車取り
著 者:歌野晶午
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
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