論調 <9月> 安倍と加計 三年目の浮気  都知事選の衝撃から七十五日|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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論潮
2017年9月12日

論調 <9月>
安倍と加計 三年目の浮気 
都知事選の衝撃から七十五日

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各誌が自民党特集を組んでいる。七月の都議選での自民惨敗が、それほど衝撃だったということだ。鴨下一郎衆院議員が言う通り、「東京には全有権者の一〇%がいる」(文藝春秋編集部「自民党国会議員408人緊急アンケート 安倍総理でいいのか」『文藝春秋』九月号)。国政に影響しないわけがない。

片山善博氏は内閣支持率の急落を、「好感を抱いてきた男女の間」に譬える(片山善博「安倍政権に起死回生の秘策はあるか」『世界』九月号)。男が「実は卑怯で狡い性格の持ち主であることがわかった時」、女は「信頼することも、愛することもできなくなる」。第三次安倍内閣の発足から“三年目の浮気”だ。

浮気はもっと前からだが、疑惑発覚後がまた“卑怯で狡い”。「どうやら「加計学園ありき」だった」と窺わせる文書を「怪文書」と称して「無視する態度」に出た。「真偽を確かめることによって自らの正しさを証明できるはずなのに」。文科省の作成と明かした前事務次官には「人格攻撃に及んだ」。「記憶にない」等々の説明も続く。どれも「卑怯な人たちのやること」で、“よく言うわ”だ。“私が何にも知らないとでも思っているのね”と、国民は「政権の体質」に嫌気がさした。

加計氏に接してきた人の「多く」が、同氏を「大学の理事長というより、ワンマンの企業経営者のようだと評する」(森功「加計に獣医師養成の甲斐性はない」『文藝春秋』)。「周囲の意見に耳を貸さない」加計氏にとって、「学校経営は、ビジネスの一環にすぎない」。「最初に獣医学部の開設を目指したのは空白地域の四国ではなく、千葉科学大」で、「今治市でなくてもよかった」。同大の「評判」は「かなりひどい」。文科省も調査で「大学教育水準とは見受けられない授業科目がある」と「つるし上げている」。どうやら先端ライフサイエンス研究は、「be動詞」や「分数」等が分からない、「アルファベットすらまともに綴れない学生」でも、官房長官風に言えば“まったく問題ない”。

「加計学園グループ三大学」のうち、岡山理大以外は慢性的な入学定員割れと赤字」だ。「中学生レベル」でも入学できる理由は、先端研究の性質だけにあるのではない。「現存する十六大学の獣医学科では、入学定員のおよそ十五倍の応募がある」。学部設置は「垂涎の的」だ。学部棟の最上階で、生ビールに高級ワイン。“男たちの悪巧み”。首相は加計氏を「腹心の友」と呼ぶが、加計問題では、首相は税金のみつぐクンにすぎない。“遊ばれてるの、分からないなんて”。

北野和希氏も都議選自民惨敗の原因に、「安倍氏の有権者の声をまったく聞こうとしない姿勢」を挙げ(北野和希「安倍政権を揺さぶった東京都議選」『世界』)、“政権の体質”を批判する。独裁気質ではワンマン経営者と同類だ。前事務次官の「告発」に対して「再調査を拒んだ」だけではない。「PKOの日報隠蔽」や「森友」問題でも、政権は「きちんとした説明をしようとしなかった」。都議選まで一週間を切ったとき、「防衛相の自衛隊の政治的中立を侵すかのような発言が飛び出し」ても、稲田氏を「続投させた」。

「この頃」から、「自民党支持者」が「共産党候補の事務所」に「立ち寄るようになった」。自民候補者は目の前で「ビラを破られ」、「罵声を浴びせられ」るようになった。平沢勝栄衆院議員も同様の証言をしている(田原総一朗、石破茂、小野寺五典、平沢勝栄、船田元「「安倍一強」で自民党は再生できるのか」『中央公論』九月号)。船田元衆院議員もこの発言を受け、政権の「体質の問題」と批判する。

適菜収氏は政権の本質を「カルト」に譬える(適菜収「安倍政権の本質はカルトみたいなもの」『新潮45』九月号)。「世の中の声に惑わされてはいけない。〔…〕「こんな人たち」に負けるわけにはいかない。とにかく導師を信じろ。修行するぞ」。

安倍晋三記念小学校での洗脳と同類だ。首相は、獣医学部新設の申請を「今年の一月二〇日の決定まで知らなかった」と答弁したが、「国家戦略特区諮問会議の議長」である。

「“走る爆弾娘”稲田朋美」の「最後っ屁は強烈だった」。稲田氏いわく「(辞任は問題が浮上したときから)ずっと、考えていた」「首相にはその都度、私の正直な気持ちを伝えていた」。「つまり、安倍はこの問題を知りつつ、「ずっと」隠蔽していたわけだ」。

「政界における上祐」たる「官房長官の菅義偉」ともども、「都合の悪い事実」は「見なかったことにする」か、「敵が捏造したことにする」か、「関係ない話を持ち出し」て「相対化する」。「欺瞞に欺瞞を重ねる」政治で、「今の日本」は「ジョージ・オーウェルの『一九八四年』の世界をそのままなぞっている」。

田原総一朗氏も別の欺瞞を指摘する(前掲『中央公論』)。首相は神戸「正論」懇話会で講演し、「獣医師会の強い要請で、学部新設はやむなく一校にした。その中途半端な妥協が国民の疑念を呼んだので、二校でも三校でも認める」と。話をそらす“相対化”だが、首相は「加計とは全く無関係」と言いながら、その選考過程に自ら噛んでいることを「自白」してしまった」(講演は、安倍晋三「自衛隊が「違憲」でいいのか」『正論』九月号に掲載)。

首相が申請を知ったという「一月二〇日」に先立ち、「一六年九月一六日・・・・・・・・開催のWGヒアリングの議事要旨」には「獣医学部の新設の問題」について、「総理からもそういった提案議題について検討を深めようというお話もいただいております・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」との記載がある(藤田英典「加計学園問題の本質は何か」『世界』八月号。傍点は藤田氏)。この九月会合は、「今治提案を通すべく執拗であった(議事要旨一一頁)」六月会合を受け、「今治提案の認定を前提にした質疑応答が中心だった(議事要旨六頁)」。

「総理のご意向」「官邸の最高レベルが言っている」などと記された、“怪文書”が文科省で作成されたのは、「一六年九月下旬から一〇月にかけて」である。藤田氏は諸資料を丹念に追い、「利益相反関係にある」首相が「加計学園の利益を優先し」たと結論する。

首相は講演で、獣医学部について「すみやかに全国展開を目指したい」とも言う。獣医師会によれば「獣医師数」は「足りている」(日本獣医師連盟「国家戦略特区による今治市への獣医学部新設に係る対応について」七月十九日)。「全国には約四万人の獣医師」がいるが、「一二%は免許を持っているものの使っていない」(村上誠一郎「安倍首相が自民党を劣化させた」『文藝春秋』八月号)。獣医学は超成長産業だと信じよ、修行せよと。欺瞞に次ぐ欺瞞で、“いつも騙してばかりで”ある。

ある記者は言う。首相が見解を「特定のメディアや場を選んで表明する」のは「国民を色分けしているのと同じ」だ(前掲「緊急アンケ」『文藝春秋』)。首相は国民全体の奉仕者だが(憲法第十五条)、「憲法を理解した形跡のない「幼児」が改憲を唱え、国会で「私は立法府の長」と平然と言い放つ」(適菜氏)。色分けされた“こんな人たち”はポアされる。

浅野健一氏は「御用新聞の読売新聞と産経新聞」を批判する(浅野健一「加計・獣医学部疑獄追求でジャーナリズムの再生を」『創』九月号)。読売は「出会い系バー」の“卑怯な”記事で「大恥をかいた」。産経の記事(「加計学園 行政は歪められたのか」)を、自民党本部は「所属国会議員や都道府県連に送付した」。「記事が党の見解だという誤解を招く」と、古川禎久衆院議員は党執行部を批判したが、誤解なのか。色分けを翼賛する“広報副部長”にしか見えないのは、修行不足だからか。

加計氏は「姿を隠したままだ」。『週刊新潮』が「直撃したが、取材拒否された」。浅野氏は加計氏に、「“えこひいき”で決まった学部設置申請を今すぐ取り下げるべきだ」と主張する。片山氏は首相に、支持率回復の「秘策」として、「獣医学部設置問題を白紙に戻すこと」を提言する。「依怙贔屓」でなかったことを「口先だけでなく行動で」示せと。「おそらく無理だろう」と氏は踏むが。

よりありそうな回復策は、今まで通り“口先だけ”でのらくらすることだろう。都議選からそろそろ七十五日だ。国民は忘れて、大目に見る。佐伯啓思氏は「空気の支配」を指摘する(佐伯啓思「民主主義のしっぺ返しが始まった」『文藝春秋』九月号)。「ただただ、雰囲気、情緒、集団的催眠」であり、人々は「印象やほんの思いつきを通して多数派に同調してゆく」が、「それこそが民主政治の本質」だという。政権の説明責任を民主政治一般に転嫁する広報副部長的主張だが、一理あるように思える。

適菜氏は「安倍信者」を、「マイケル・オークショットが指摘した「できそこないの個人」の類型」と見る。「自分たちを温かく包み込んでくれる「世界観」、正しい道に導いてくれる「導師」を必要とする」群畜だ。“空気”が蔓延しているなら、この類型は安倍信者に限らない。政権だけでなく、国民の体質も問われている。のらくらと集団睡眠を待てば、聞き直る態度を取らなくても、両手をついて謝らなくても、できそこないの女は男を許してあげちゃうのだ。
2017年9月8日 新聞掲載(第3206号)
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