田園調布秀や 女将・狩谷秀子さん(上)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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2017年9月19日

田園調布秀や 女将・狩谷秀子さん(上)

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閑静な住宅街・田園調布にある間口の小さな呉服店。「田園調布秀や」は、ここ数年で着物雑誌はもとより、さまざまなファッション雑誌にも紹介される注目の呉服店に成長した。この店を切り盛りするのが、女将の狩谷秀子さん。狩谷さんの飾らない気さくな人柄と、「秀や好み」と言われるコーディネートが多くの女性たちを惹きつけている。五〇歳を過ぎてからの起業は、狩谷さんの人生をどんなふうに変えていったのか、お話を聞きに田園調布に降り立った。


ある会合で狩谷秀子さんを紹介されたのは、今から十年以上も前のこと。茶道の稽古を再開したくて先生を探していたころだった。聞けば、狩谷さんのご主人は呉服店を経営していて、ご自身も着物に興味を持ち、「お茶の稽古にも惹かれる」という。そのことがきっかけになって、一緒に表千家の先生の稽古場に通うようになった。

背はすらりと高く、着物姿もさすがに板についている。十八歳のころには“ミス・インターナショナル”の日本代表として、世界大会に出場した経験もあるという。茶道の稽古場に通うたびに、狩谷さんがどんな着物でいらっしゃるのか、とても楽しみになっていた。

    *
秀やの女将、狩谷秀子さん
 大学を卒業後、アルバイトの経験はあるものの、正社員としてどこかに属することはなく結婚。ご主人のお父様が創業した呉服店を手伝うことは許されず、ただひたすら子育てを中心に、専業主婦として忙しい時間を過ごしていた。田園調布に呉服店を出したご主人の手伝いをするようになったのは、五〇歳の時。このころから狩谷さんの人生も動き出す。

着物に対する考え方が違ってきたころ、ご主人は田園調布以外にも多店舗で呉服店を経営していきたいと考えていた。「だったら、田園調布の店は自分に譲ってほしい」。「できるはずがない」と言われたのを、逆に「ならばダメモトで、全力投球してみよう!」とチャレンジする方向に心は大きく傾いた。結局さまざまなことが重なって、ご主人とは離婚。名前を「私好み」を集める店、「田園調布 秀や」と改め、起業に踏み切ったのは狩谷さんが五十三歳の時だった。
「今から思うと、呉服業界も大きく舵を切らなければ生き残れない転機だったと思います。逆にこの業界のことをほとんど知らなかったから、船を漕ぎ出せたのでしょうね」

茶道の稽古をしていると、着物はどうしても切り離すことはできず、私も事あるごとに狩谷さんの店をのぞくようになっていた。田園調布は、とても落ち着いた高級住宅街だが、果たしてここで「着物」を求める人がどれくらいいるのか――「最初の頃はご近所の方たちに“今時なぜ呉服店オープン?”と不思議がられたり、とにかく呉服屋っぽくしたくなくて、のれんを桜色にしたり……」
秀やオリジナルの名古屋帯
普段は洋服を着て、接客をする狩谷さんの姿は、着物を着たことがない人にとっても、一つハードルが低く、雑誌の読者モデルをしていたこともある狩谷さんの存在は、着物を着てみたい女優さんやモデルさんの知るところとなる。ある女優が復帰するときの記者会見で「秀や」の着物と帯を身に着けた。テレビで繰り返し放映され、狩谷さんがとても嬉しそうに話してくれたのを、今でもよく覚えている。

「秀や好み」という言葉が、最近の雑誌のタイトル等でよく使われるようになった。このことを聞くと「私が使ったわけではなく、雑誌社の方がこの言葉を使うようになって」。古典柄が大好きだという狩谷さん。松や撫子などの古典柄をモダンにアレンジして、今の生活様式に無理なく溶け込めるようなコーディネートを目指してきたことを、このような言葉で言われているのだという。

起業して、今年で九年目。「大変だったことは?」と聞くと「苦しい時のことは忘れちゃった」と狩谷さん。「なにかとんでもなく大変なことが舞い込んできても、なんとか潜り抜けている。そうしたら次にやってくることは前回より大変でも、必ずやり遂げられると信じるんです。悪いことを拾わないように、いいことばかり拾っていく。“半分しかないではなく、半分もある”そう考える習慣のようなものが身についているのかもしれません」

次回は「田園調布 秀や」がなぜ、ほかの呉服店と違うのか、そのあたりのことをお聞きする。
田園調布秀や 女将・狩谷秀子さん(下)
◇十月十八日(水)~二 十四日(火)銀座三越七階 サロンドきものにて「田園調布秀や」初の企画展を開催予定。

2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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