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八重山暮らし
2017年9月19日

八重山暮らし➉

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フクギ(福木)には指先ほどの淡い黄色の花が鈴なりに咲く。
 (撮影=大森一也)
家を守る木


福木の皮で煎じた熱い染液に純白の糸を浸す。取り上げた木綿の綛(かせ)は、南国の陽射しを思わせる鮮麗な黄に染まる。植物染料で、これほどまでに深い色を表現できるとは…。沖縄の樹木を代表する福木をほれぼれと見上げた。

サンゴ石灰岩の石垣と福木の並木道。南国情緒あふれる風景に焦がれる旅人は多い。古来より、福木は家を守る特別な木であった。屋敷の周囲の石垣に沿い並び、天空へとそそり立つ。吹き荒れる大風をものともせず、台風から家屋の倒壊を防いだ。大地にしがみつき、祖先と共に長の年月を生きてきた。

肉厚の葉は、常夏の島の鋭い陽を遮る。つやめく葉の陰では蒸せる風が涼をおび、汗で濡れた首筋をなぞる。天然の空調にしばし陶然となり、息を吐く。

だが、見回せば赤瓦の家は鉄筋コンクリートに置き換わり、単調なブロック塀が街の喧騒を断ち切る。枝を払った福木が根元から倒され、姿を消していった。
「もったいないことを…、なんて申し訳ない…。福木は祖先の代から、家を守り続けてきたのに……」

初秋の昼下がり、道に横たわる大木を目にした染織の師は、かぶりを振った。

手ずから染めるだけの樹皮を福木から剥ぎ取る有り難さよ。皮膚に宿る馥郁たる記憶を忘れることなど、できやしない。
2017年9月22日 新聞掲載(第3207号)
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